右往左往する日々。夫はいつもマイペース。そんな状況を察した父が手紙を書いてくれました。「至らないことも多く、申し訳ないとは思いますが、長い目で見守ってやってください。そのうち娘はきっとお役に立てるようになります」と。父の励ましが、どんなに心強かったことでしょう。母がよく口にしていた「日にち薬」の言葉通り、少しずつ新しい景色が見えてきて、知らないこと、不慣れなことにもそれなりの面白さを感じるようになっていきました。「時はすべてを癒やしてくれる」と、英語のことわざにもあるように、流れる月日は私を慰め、強くしてくれました。
母校の校訓である「克己、尽力、楽天」がふと心に浮かびます。高校の先生の「君たち、楽天とはお気楽なことではなく、天命を待つという意味ですよ」との声も忘れられません。
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「お茶の製造工場は、ホテルの厨房のように清潔であるべきなんだよ」とは、「深蒸し八女茶」を考案された「室園銘茶」の室園敏雄氏。お茶の仙人のような方で、私が結婚したときのお仲人さんでもあります。帰省の折、質問を抱えてうかがいます。
室園氏はお茶の栽培指導、製造、販売、淹(い)れ方までに精通した、まさにプロフェッショナルな方です。夫妻のおかげで今の私があると感謝しています。新しい環境になかなかなじめず戸惑っていた結婚当初、悩みを相談した時には、和子夫人から「石の上にも三年よ」と諭していただきました。ついこの間のことのようです。年齢などどこ吹く風で、志高く、品質向上に情熱を燃やし続け、こよなくお茶を愛する大先輩です。
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英語を学んで得たことは、日本語を大切に考えるようになったことです。中学1年から6年間、東京大学出身で、NHKの英語放送のアナウンサーを経験なさった久保山嘉博先生が主宰する「カルミネイト英語会」で教えを受けました。塾や英会話教室が今ほど多くはなかった50年以上も前、久留米(福岡県)の繁華街にあった小さな家でスタートした英語会。狭い部屋に入りきれず、階段にまで腰かけ、講義を聞く生徒たちの姿に心動かされた銀行員の尽力で、広く快適な教室が建てられ、私はそこへ通いました。
久保山先生は文法、作文、発音指導だけでなく、英語圏の文化についても教えてくださいました。英語のみならず、日本語の理解を深める大切さ、漢字修得にも励むことなど、その教えは多岐にわたっていました。
久保山先生は教育者という言葉そのもののような高潔なお人柄でした。「先生がご飯を食べる姿など想像できない」と母に話し、笑われたことがありました。恩師である久保山先生との出会いには、感謝あるのみです。