
食は生活における潤滑油と唱えた料理研究家の小林カツ代さんは、更生中の少年、少女たちにおにぎりの作り方を教え、「お母さんがおにぎりを作ってくれなかったと嘆くのはやめて。あなたたちが誰かのためにおいしいおにぎりを作れるようになればいいのよ」と、励まし続けたそうです。私自身、小林カツ代さんの著書「働く女性のキッチンライフ」「働く女性の急げや急げ料理集」にどれだけ助けられたことか。台所で開いたこれらの本にはしょうゆやだしなどのシミがたくさん付いていますが、購入した料理本がいくら増えても、とても処分する気にはなれません。
「食べること」「味わうこと」とは、食欲という本能を満たすだけではなく、心にも大きな影響を与える大切な行為だと実感しています。
反抗期真っ只中だった息子が重い口を開くときといえば、夕飯を食べながら、「母さん、明日の弁当のおかずは何」のせりふのみ。あの頃は弁当だけが唯一親子の絆だったと、今では笑い話ですが、当時はかなりカリカリと頭にきていた未熟な母親でした。反抗期の子供の扱いに悩んでいる親御さん、食のつながりだけは切らさず、頭を低くしてやり過ごして下さい。嵐はそのうち過ぎ去ります。
賞味期限頼みの風潮にも疑問を感じるときがあります。納豆など少しでも期限切れになると嫌がる子たちに、「発酵食品よ。大丈夫食べられる!」と、自身の食材管理のミスを棚に上げ、言い放っていたことを苦笑しながら思い出します。
自分の鼻で匂いを嗅ぎ、舌で腐敗をチェックする本能も大切なのではと、日付表示のみに頼る世代に伝えたいとは、食品衛生の専門家からは異を唱えられそうですが…。