【旅館経営 タテ・ヨコ・ナナメ 171】新型コロナウイルスへの経営対応58 原理原則4 情報集め 佐野洋一


 「『…頼みの経営』から抜け出す」ために掲げた七つの「原理原則」のうち、「市場開拓」「顧客確保」「品質向上」についてお伝えしてきた。ここから次のテーマ「情報集め―新しい情報を常に仕入れる」について考えていく。今回は少し理屈っぽい話になるが、お付き合い願いたい。

 (1)どんな情報を集めるか

 一口に情報と言っても、シンプルな数字だけのデータのようなものから、高度な経営判断情報までさまざまなレベルがあり、また分野は無数にある。いったいどんな情報をどう集めたらよいのか?

 人が行う情報収集活動は、大きく二つに分けることができる。一つは「何かの目的を持った情報収集」で、これは自分から能動的に探し求める。典型的なのはネットでのキーワード検索。何か調べるために読む参考図書などもこれに該当するだろう。

 もう一つは「これといった目的性のない情報収集」で、受動的に入ってくる情報から、自分にとって意味のあるものだけをつまみ食いする方式だ。テレビや新聞、ヒマつぶしに見る動画やSNS投稿などがこれに当たる。各種のセミナーなどはその中間と言ってよいかと思う。

 さて、このことに照らして結論を言うと、趣味や教養を別とすれば、経営のためにはまず「目的を持った情報集め」すなわち「向上に役立てることを目的とした情報集め」をしましょう、ということになる。さらに加えるなら、情報は「使うことを前提に集める」こと。中身の是非、取捨はともかく、情報は必ず「使うつもりで」集めることが重要だ。そうでないと、あまり意味のない情報ばかりが漫然と収拾されることになる。

 (2)情報集めをしないとどうなるか?

 例えば設備投資や大がかりな財務政策、法務面など、経営を左右するような判断を伴う局面では、情報集めをおろそかにすると取り返しのつかない失敗をする場合がある。設備投資を控えた旅館・ホテルではたいてい、より良い投資とするために、ベンチマークすべき施設や販売手法など、情報集めが精力的に行われる。では、そうでない時(=平常時)はどうか?…。私見だが、あまり熱心に行われていないことが多いと見受けられる。しかし平常時に情報集めをする意味がないか、といえば、決してそんなことはない。情報を集めるべきかどうかは、今の経営に目的となる課題を認識しているかどうかによる。収益性、販売、サービス、生産性、組織、人に関する課題など、「目的意識」さえ持てばいくらでもあるのだ。平常時の情報集めに熱心でないということは、見方を変えればそれだけ問題解決や向上の「目的」がないということになる。では平常時にそうした目的がなく、従って情報集めもしていないとどういうことになるか? 実は旅館商売では、すぐに火急迫るような問題が起こるわけではない。多くの場合、ただ「そのまま」であるだけだ。しかし情報集めを怠っているゆえの「停滞」こそが、長い間に大きな格差を生むのである。

 冒頭に示したように、ここに取り上げたのは「『…頼みの経営』から抜け出す」ための情報集めである。「抜け出す」ために目的を持つこと、そしてその目的に即して不断に情報集めをしていくことをお勧めしたい。

(リョケン代表取締役社長)      

 
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