【旅館経営ワンポイント講座 18】「ピーターの法則」と「創造的無能」 渡辺清一朗


 ホテルを経営する20年来の友人。そろそろ世代交代を考えてはいるもののなかなか思い切れないらしい。加えて旧態依然とした組織改革も進んでいないと愚痴をこぼす。「組織の改革ってなかなかうまくゆかない。役目が変わると人が変わったように急に能力を発揮できなくなったりするよね」「ピーターの法則って意外と当たってるかもしれないよね」。

 1969年に出版された「ピーターの法則―創造的無能のすすめ―(ローレンス・J・ピーター、レイモンド・ハル著)」によると、人は能力の限界まで出世すると有能な人も無能な管理職になる。無能な人は今の地位に落ち着き、有能な人は無能な管理職の地位に落ち着く。その結果、各階層は無能な人ばかりとなる。組織の仕事は出世余地のある無能レベルに達していない人によって遂行される、というもの。

 「人は昇進を続けるといつ日か能力の限界に達し無能になってしまうのだろうか?」

 例えば、あるホテルに有能な社員がいたとする。その人は現場の作業をてきぱきとこなしている。仲間に信頼され、上司の受けもよく係長になる。でも係長の仕事は人事ローテーションの管理などでサービスの現場に立つことはめったにない。現場に茶々を入れたりはするが、管理職としての仕事はお粗末な限り。昇進しても能力を発揮する人は次のステップに進むが、どこかで能力を発揮できなくなり昇進が止まる。従って、いつしか上司は無能な人ばかりとなる。そして、実際に仕事をしているのは無能レベルに達していない人がやっているということになる。確かに、有能なウエーターが有能なマネージャーになるとは限らないし、有能な国会議員が有能な総理になるとは限らない。でも、現場は何とか動いている。

 「昇進の仕組みに対し有能な人はどうなってゆくのだろうか?」

 組織で昇進するためには和を乱してはいけないとすると、無能な上司が昇進のカギを握るので、良くも悪くも組織になじんでいる人が昇進しやすい。逆に、有能な人は組織の枠を超えて能力を発揮するものだが、組織からはみ出してしまうとなかなか昇進しない。転職してキャリアアップできればいいが、自滅したりしてしまうことも多々ある。

 「いつかは無能になってしまうとすればどうしたらいいのか?」

 著書の中では「創造的無能」という方法が紹介されている。

 有能な工場長だけど仕事部屋は故意にちらかす。優れた部長だけどわざと社長専用のスペースに車を駐車するなどだ。

 つまり仕事はできるけど昇進しないように、任務と無関係なところで無能を演じるのが「創造的無能」ということらしい。

 「(創造的無能は)何百万という人々が無能レベルに達するのを防ぐ。その結果、欲求不満を抱えて非生産的状態に陥ったかもしれない何百万という人々が、残された生涯を幸福に、社会の有益な一員として過ごせるようになる」と述べられている。

 半世紀前に著されたものなのに現代に当てはめてみると学ぶべきことがたくさんある。

 創造的無能の実践も既に多くの場所で行われているのかもしれない。

(EHS研究所会長)

 
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