【旅館経営ワンポイント講座 11】支払う順番を間違ってはいけない 渡辺清一朗


 特許申請中の害虫駆除技術を有した会社の社長からの相談。「税金の滞納がありもう待てないと通告されました。月末までに対応しないと口座を凍結されます。どうしたらいいでしょうか」。

 詳細を聞いてみると「過去の事業の負債を解消しないまま税金も滞納が続いた。なんとか会社を存続したかった」とのこと。「特許技術と従業員を切り離し第三者へ事業譲渡。同時に今の会社は清算し個人は自己破産しましょう」というシナリオで進めることとなった。

 経営者にとって資金繰りのひっ迫以上に頭の痛い問題はない。かく言う私も「不惑」に差し掛かる頃、毎月のように月末近くになると眠れない夜を過ごしたことを思い出す。くだんの社長もきっとそんな夜を過ごしてきたのだろうと思うと他人ごとではない。

 支払う順番を間違ってしまうとにっちもさっちもいかなくなる。過去を修正することは不可能だが、今後について慎重かつ迅速に対応するべく作戦会議を行った。約束した金額の半額をキャッシュで持参し誠意を見せることで何とか口座凍結は免れた。「逃げずに正面から」の原則が功を奏したのだがいくつもの難関は待っている。

 言うまでもないことだが、資金繰りが厳しくなったときの支払いは大変だ。資金が不足する中で、支払う順番を間違えてしまうと取り返しがつかない状態に陥ってしまう。しかし、現実には支払う順番を間違ったあまり苦境に陥っている人は多い。そこで、支払う順番について考えてみたい。

 まず結論を端的に述べる。1番は「従業員の給与」、2番目は「仕入れ支払い」、3番目に「社会保険料や租税」、最後に「金融機関への支払い」だと確信する。その理由を以下に述べる。

 まず、営利事業である以上、売り上げや利益を確保しなければならない。そのためには、お客さまに喜んでいただくことが重要で、そのことは従業員の奮闘努力なしには実現しない。従って「従業員の給与」が1番。このとき、自分や親族の給与を後回しにすることをお忘れなく。

 次に、お客さまに喜んでもらえる「もの」や「こと」を提供するためには協力業者の協力は必須なので「仕入れ支払い」が2番目。

 そして、事業を営む者の最低義務としての「社会保険料や租税」の支払いが3番目。

 従って最後は「金融機関への支払い」となる。損益計算書を上から順に眺めてみても、金利の支払いは営業外費用で下の方にあるし、元金の支払いは決算書のどこにも見当たらない。

 ただし、誤解してほしくないのは「借りた金は返さなくていい」ということでは決してない。資金繰りが厳しく支払うための資金が限られているときの「支払う順番」を間違ってほしくないということ。言うまでもなく、金融機関、国や市町村、社会保険事務所と真剣に支払いのための交渉をすることなく、協力業者への支払い条件を変更したり、従業員への給与を遅配したりというようなことは絶対にやってはいけない。

 経営者には「事業の存続と雇用の確保」という重い義務がある。

(EHS研究所会長)

 
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