【旅館はもっと良くなるべきだ 旅館経営 タテ・ヨコ・ナナメ 120】新型コロナウイルスへの経営対応7 運営のシフトチェンジ リョケン代表取締役社長 佐野洋一


 ひとまず緊急事態宣言が全都道府県で解除された。だが依然として感染に対する警戒心は緩んでいない。一定の需要回復までには、なおしばらく時間を要するだろう。

 前回も述べたが、団体の発生はしばらく見込めない。10~20人程度のグループはいくらか動きも早いと思われるが、いわゆる団体が動くのは、このまま順調に収束したとしても来年春以降と見ておいた方がよいだろう。つまりこの先8~10カ月前後は、大きな団体が見込めないのだ。いやがおうでも少人数客主体でやっていかなければならない。

 もともと個人客主体でやってきたところは別として、ある程度団体客を扱ってきた多くの旅館は、その間に苦戦を強いられるだろう。運転資金の借り入れでなんとかしのいでいるとはいえ、長期間にわたる低稼働、低売上でやっていくには、それなりのローコスト運営にシフトチェンジしなくてはならない。団体がないとすれば、それを前提にオペレーションを組み直すことだ。

 団体から個人へ対応をシフトすると、効率は低下するように思える。作業単位では確かにそうだが、労務効率全体として見れば必ずしもそうではない。

 団体客と個人客で決定的に違うのは、求められる対応が「同時集中型」か「順次分散型」かという点だ。個人客では、いろんな場面で「一度にまとめて」でなく「個別に少しずつ」でよいことになる。つまり一時に多くのスタッフを配置して構える必要があまりない。お迎え、チェックイン、食事提供、客室をはじめ館内の掃除など、あらゆる場面で「個別に少しずつでよいとすればどんなやり方ができるか?」を考えてみよう。

 例えば、食事提供のタイミングを分散化できれば、これまでより少ないスタッフ人数での対応も可能になる。夕食のスタート時間を夕方5時から8時ごろまでに分散させてはどうだろうか。各時間帯の人数が平均化するよう、お客さまに「この時間でしたら混み合うこともありません」と誘導することもできよう。宴会では2時間以上かかっていた会食が、個人客なら1時間前後で終わるので、後片付けが深夜におよぶ心配も少ない。また、これまで大小織り交ぜての会場割り付けやスタッフ配置で苦慮していた切り回しなども、少人数の単位で考えるならば少しばかり単純化できるかと思う。

 この機会に、料理の献立本数を一気に絞ってみよう。当面は1~2コースぐらいでもよいのではないか。そもそも料理献立の複雑化は団体への対応として始まったものなのだ。

 客室が思うように埋まらない場合、掃除をするべき部屋数は全体の2分の1とか3分の1になるかもしれない。ならば今日使わない部屋は掃除しないまま放置しておくことを考える。つまり各部屋の掃除は1日か2日おきにやることになる。掃除のスタッフはそれに見合う人数で済むし、その間に室内のウイルス残留リスクも大幅に低減するので、理にかなっている。

 感染懸念のある今だからやらなければならないことがある。それはお客さまと従業員の安全確保だ。他方で、感染懸念のある今だから許されることがある。それは、安全確保のためお客さまにお願いをすること、また省略、軽減、変更をすることである。

 (株式会社リョケン代表取締役社長)

 
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