【旅に出よう~温泉はにっぽんの宝~89】旅館さんのあるじの魅力とその力 山崎まゆみ


 12月27日発売の「週刊新潮」で「昭和の宰相が愛した温泉」を書きました。合併号ですので、まだ発売中です。

 吉田茂さん、岸信介さん、池田勇人さん、佐藤栄作さん、大平正芳さん、田中角栄さんら名宰相が宿泊した旅館で見せたエピソードを描いています。

 もうこのテーマで長く取材をしていますが、歴代総理の意外な一面を発見しています。

 岸さん、安倍晋太郎さん、現総理の三代にわたり愛された旅館には、岸信介さんと安倍晋太郎さんが源泉名を付け、揮毫(きごう)したものが浴場の入り口に掲げてありました。その宿で岸信介さんは般若心経を写経しています。讃岐の鈍牛と呼ばれた大平さんは、旅館の女将には親しみやすさと、ユーモアで会話を愉しんでいました。お酒は弱いはずなのに、女将に勧められて熱燗2合を飲んでいます。角栄さんの塩っ辛い、濃い味付けが好きなところはイメージ通りでしたが。

 こうして取材していますと、豪放磊落(ごうほうらいらく)の人物であれ、日本を動かした人物であれ、ひとたび温泉に入ればその人の素顔が見えてくるということです。

 旅館が持っていた力も思い知りました。宰相たちが訪れている旅館のあるじは、地元の有力な政治家の支援者であり、理解者。その地元の政治家が総理を連れてくるケースが多かった。

 今は政界を引退して、会津若松で静かに暮らす85歳の渡部恒三さんにもお話をうかがいました。

 「向瀧(むかいたき)(福島県東山温泉)というのはね、『いずれは向瀧に泊まりたい』と誰もが思う宿だったんだ。向瀧の先代と俺は中高大学と、同級生で兄弟以上の付き合いだ。私が衆議院議員になった当初は、会津に家がなかったから、向瀧を自宅のように使わせてもらった。もう最高のぜいたくだったなぁ」。その郷土の自慢の宿に田中角栄さんを連れてきていたのです。「『こんなにいい宿はない。素晴らしい』と角栄さんは喜んでいましたよ」と、誇らしそうに語っていました。

 宰相が愛した旅館には、必ず宰相を魅了した宿の主がいました。

 温泉旅館は、ホテルと比べると、お客と主との関係が密であり、その主を慕って客が訪ねるということが多いですよね。

 本年は、旅館の主や女将の魅力的な人の話もつづっていこうと思っているんです。

(温泉エッセイスト)

 
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