【山崎まゆみの「ちょっと よろしいですか」9】旅館で素顔を見せるスター 温泉エッセイスト 山崎まゆみ


 跡見学園女子大学の「温泉と保養」講義で、女性が温泉地や旅館で働く心得を伝えることを目的に、東京上野にある鷗外温泉水月ホテル鷗外荘の女将・中村みさ子さんにゲストスピーカーとしてお越しいただきました。負債を抱えながら女将となった経緯、うれしいお客さま、困ったお客さま、女将の日常をお話しして下さいました。

 その中には、両親に結婚を反対された2人が鷗外荘を結納の席に選んだ話がありました。年月がたち、今でもその夫婦のご家族は鷗外荘の顧客だそうです。また、温泉が出なくなってしまった日に、お客さんに頭を下げる女将へ、怒るお客さまもいれば、逆に女将の立場を思い女将へねぎらいの言葉をかけてくれたお客さまもいる。そんなさまざまな出会いで、女将自身が成長してこられた、実に示唆に富むお話でした。

 私は、女将の話を拝聴しながら胸が熱くなり、何度も涙がこぼれました。日々、生身のお客さまを迎えることを生業(なりわい)とする旅館業の皆さんは、どんなに心を遣われているのだろう。心がすり減ってしまう出来事があっても、笑顔でお客さまを迎える仕事は貴い。

 私は今、温泉旅館に滞在した昭和の政治家、文豪、スターたちの逸話を取材しています。

 2018年には「名宰相が愛した温泉」「文豪が愛した温泉」を「週刊新潮」の特別読物として書きました。岸信介、安倍晋太郎、安倍晋三総理の三代が通った宿。田中角栄や渡辺恒三が語らった座敷がある宿。林芙美子や夏目漱石、開高健など文豪がこもった宿。文豪は懐が寒い時でも贅(ぜい)を尽くすことで喜びを得る生き物であり、そんな特性を理解し、身を削るように執筆する作家を支える宿の主・女将の姿。

 温泉旅館やホテルは、人間の喜怒哀楽が出やすい場所。感情が行き来する温泉旅館に魅了されて、私はこれをテーマに書き続けています。

 12月26日発売の「週刊新潮」にも、「昭和のスターが愛した温泉」を書いています。石原裕次郎、高倉健、美空ひばりなどの大スターが旅館の主や女将を信頼して見せた素顔のエピソードをつづりました。

 2019年は「温泉」「旅館・ホテル」の本質を問う仕事をしたいと思っていますので、よろしくお願い致します。

(温泉エッセイスト)

 
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