
あけましておめでとうございます。私がコーディネーターを務める「アフターコロナ・ウィズコロナ時代の観光」対談は6回目となりました。
新春号を飾っていただきましたのは建築家の隈研吾さんです。
以前、隈研吾さんに「お風呂」をテーマにしてインタビューしたことがあります。そのとき、記憶に強く残ったお言葉を記します。示唆に富んでいますので、ご参考になれば。
「私自身、お風呂の設計の仕方も歳を経るにつれ変わってきました。最初は、かっこよく作ろうとしていましたが、今では“緊張感”をどうほぐすかがテーマになっています。自分なら、どういう場所がリラックスできるかを突き詰めれば、それは邪魔なモノがないということ。例えば、お風呂ではよく目に入るところに垂直な壁は作らない。視覚的に威圧感があるからです。水をあしらうなら、なだらかに落ちるインフィニティーの作りにするといった具合です」
これが隈さんの根本的なお風呂への考え方です。そしてお風呂の作りに関しては、「湯船の縁をどうするかで、お風呂の印象が随分変わります。いざ湯に漬かれば、湯船の中はもうお湯が入っていますし、入浴中は底まではしげしげと見ない。その代わり、お風呂の縁はずっと目に入るし、頭や肩、首や腕を置いたり、横たえたりと、体が最も接する部分なので、そこが人間にとって親しみが持てる材料かどうかが肝心です。だから縁の素材にはこだわります。高価なひのきでも、縁の部分だけ使えば傷んでも取り換えが簡単ですよ。湯船を全部ひのきで作ると、取り換えるのも大変ですから」とのこと。
隈研吾さんとは出会ってかれこれ7年ほどたちますが、実は拙著をよくご覧いただいていますので、「女将は見た 温泉旅館の表と裏」に触れると、対談の末尾にある「日本の女将を世界に輸出したい」という話になったのです。これはとてもうれしいお言葉で、私も強く共感しました。
観光経済新聞が事務局を務める日本旅館国際女将会も同様のコンセプトだと聞きます。会長の長坂正惠さん(下呂温泉「しょうげつ」の女将)は「私たちは旅館文化、日本文化を大切に継承していく担い手であること、そしてそこにとどまらず、改革していかなければならないことを意識しながら経営をしていきたいと思っております」とおっしゃっています。
さて、拙著が発売されて3週間がたちました。
既に多数の著者インタビューを受けましたが、記者からは「あるようでなかった本」「着物姿で食事の説明をしている女将の姿しか知らない。なじみの女将を思い浮かべながら読んだ」と評価されました。
「温泉はこんこんと湧いていて、旅館には人が行き交い、女将がいる。読んでいて『生きている』という言葉を思い浮かべました」とは、毎日新聞大阪本社のベテラン学芸記者です。ちなみに私が敬愛する山崎豊子さんも毎日新聞大阪本社学芸部の出身。なんだかうれしさが増すものですね。
ある旅館オーナーからは、「それぞれの女将さんのお人柄や人生が伝わってきて、ずっしりした読み応えがありました。うちもそうですが、旅館業はやっぱり家業だし、地域全体を映す鏡でもあると思います。エピソードは本当にその通りで、設備はなぜか休みの日に壊れるし、台風や大雪は土日や忙しい日にやって来ます。コロナでのご苦労や旅館をたたまれるときのお話は他人事と思えません。旅館業界の現状を上手にお伝えいただいて本当に感謝しています」と励みになる感想をいただきました。
まだ爆発的に売れるまでには至りませんが、口コミで静かに広がっています。
今年も、旅館や女将文化の理解を深め、そしてファンを増やしていきたいです。
(温泉エッセイスト)