【専門家に聞く 旅館ホテルのリフォーム】最近の商品整備事例 リョケン代表取締役社長 佐野洋一

  • 2022年7月20日

佐野氏

独自価値づくりは存在価値づくり 「事業コンセプト」へのひもづけを

 弊社でお手伝いしてきた商品整備の中から、最近のいくつかの事例をご紹介させていただく。

 「コンセプト」には「商品コンセプト」と「事業コンセプト」という二つの次元がある。商品コンセプトとは、市場や顧客に訴求する商品の特徴であり、事業コンセプトとは、あるべき事業の姿の実現を図る戦略的な狙いを意味する。ご紹介する事例は、いずれも商品コンセプトに事業コンセプトがひもづけられている。単に物理的に新しくするということでなく、経営的な「意味の実現」を目指すことが重要だと考える。(以下、施設名に敬称を省くことをお許しいただきたい)

(1)清流山水花 あゆの里

 2020年7月4日の豪雨災害によって甚大な被害を受けた同館は、1年あまりの休業を経て全館にわたる商品力強化を進めた。ロビーをはじめとする1階パブリックの全面リニューアルにより、新たに特徴となる「焼酎ラウンジ」を設け、旧レストラン・料亭街を快適かつ合理的なダイニングに生まれ変わらせるなどした。また「温泉露天風呂付きスイートルーム」をはじめとする客室の大幅グレードアップを行い、全部で23室の露天風呂付き客室を持つに至った。

 しかし本質的に重要なのは、これらリニューアルに合わせて踏み切った「団体・グループ客受け入れ重視から個人客主体へ」の営業方針転換である。まず価格政策を大きく変えた。またそれまで和・洋に分かれていた厨房機能を一体化した上で、新たにメイン厨房と、ダイニングのためのサブ厨房と位置付けることによる調理運営の合理化などで、高い収益構造の基盤を築き上げた。

清流山水花 あゆの里 「焼酎ラウンジ」=地元の名産「球磨焼酎」を集め、陳列した「焼酎蔵」に隣接。セレクトされた焼酎の試飲やサーバーを利用した焼酎サワーを楽しむことができる

(2)ホテル華の湯

 18年に、大型旅館としての集客ブースターとなる「ツインコンベンション」や「ツアービュッフェ」といった強力な商品を整備してきた「ホテル華の湯」。同館を含め四つの施設を運営する「栄楽館グループ」が、21年度プロジェクトに掲げたテーマは「今後の個人客化にも対応できる新たな価値を備えた商品の創造」であった。これに沿って進められたのが、客室を中心とした個人客志向型高質商品の整備だ。プロジェクトの第1期には、「離れ松林亭」に、シンボルとなる2室のプレミアルームを整備した。そして第2期では、42平方メートルの広さを持ちながら「お2人様専用」とした和モダンスタイルの新客室「ジャパニーズツイン 松韻」6室、17・5~21・6平方メートルという適度な広さを確保した「ゆったりシングルルーム」11室、さらに「離れ松林亭」宿泊客専用のプレミアラウンジと専用ダイニングを整備することで、客室の付加価値をいっそう高めた。

ホテル華の湯 「離れ松林亭『連(つらなり)』」=72.37平方メートル、2人専用。源泉掛け流し露天風呂、ダイニングルーム、60インチスマートTV、ワーケーションスペースなどを備える。

ホテル華の湯 「プレミアラウンジ『比翼』」=離れ利用客専用とすることで高級客室の価値を高める

(3)ホテル金波楼

 耐震改修により長期間の休業を余儀なくされた改装工事で、積年の課題であった厨房周りの合理化を図った。製品冷蔵庫の拡充による作業不合理の解消、衛生上の区画整理、食事会場への動線合理化などである。また投資予算の大半が耐震補強に費やされた工事であったが、その中で玄関、ロビー周りなど「顔」となる部分を大幅にリニューアルすることで、店格イメージを高めた。

 同館は立地の特性上、団体・グループ客の誘致も図っていく必要がある。このため、集客エンジンとなるコンベンションホールの全面的なイメージチェンジを行ったほか、「リビング・パブ」という新たなコンセプト商品をデビューさせた。ここには、個人客、グループ客を問わず、思い思いの楽しさを見つけることのできる数々の「仕掛け」が盛り込まれている。

ホテル金波楼「LIVING PUB  The Walrus Club(ザ・ウォルラスクラブ)」=大型スクリーンによる環境映像上映、コワーキングスペース、各種カードゲームなどを用意

(4)暖灯館 きくのや

 同館は20年前からペット同伴での宿泊を受け入れてきた「ペット歓迎の宿」だ。このたびの改装ではペット同伴専用の温泉露天風呂付き客室「みずのね」3室を増設し、17室中8室が「ペット同伴専用客室」となった。今回整備の3室は68.70~72.62平方メートルと、かなり広い。ツインないしトリプルで、3室とも室内にダイニングを備え、夕・朝食とも快適な部屋食提供を可能にしている。

 一方で、これまでペット同伴専用客室であった最上階の3室を、一般客向けのハイグレードな温泉半露天風呂付き客室「天の風」2室として改装した。こちらも夕・朝食とも部屋食対応している。

 「ワンちゃんと泊まれる宿」の看板を掲げつつ、料理とサービスの質を高める努力を続け、着実に高収益化を実現している。

暖灯館きくのや ペット同伴専用の温泉露天風呂付き客室「みずのね『このん』」=トリプルベッドルーム、リビングスペース、ワンちゃん専用風呂などを備える

独自価値づくり

 独自価値とは、「よそになく、お客さまに価値として認められるもの」と弊社では定義している。改装などの際にも、これを持つことを意識したい。

 独自価値は、機能的側面と情緒的側面で考えることができる。

 機能的側面とは、早い話、「よそにない機能」である。射程の長い砲撃力を持てば、それだけで圧倒的に優位な戦いができる。ただし競うべきは必ずしも規模や強さだけではない。何かの用途にマッチした機能を備えれば、そのマーケットにおいてやはり強い。

 情緒的側面とは、人の五感や知的・精神的欲求を刺激して「ウォンツ」をかき立てるようなものである。そしてこれをハードだけで捉えてはならない。食、文化、環境、心地よさ、癒やし、体験…など、いろいろな要素とかけ合わせて考えてみることである。

 どこにもあるような中途半端なものでは独自価値とはならない。むしろそういう「ありきたりなもの」を削ってでも、特徴となる部分に資源を集中させることをお勧めする。独自価値づくりは、自館の存在価値づくりと心得たい。

 

さの・ひろかず 中小企業診断士、ホテル・マネジメント技能検定検定委員。全国各地の旅館・ホテルで設備投資協力、経営協力、講演、教育訓練などを手掛ける。講演、研修などの実績は通算100回以上。

 
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