【寄稿】環境が変化する中でも変わらない「旅」への意欲 JTB総研 主任研究員 早野陽子

  • 2021年7月21日

 コロナ禍は、私たちのライフスタイルや価値観を大きく変えた。オンライン化が急速に進み、働く場所や買い物をする場所は様変わりし、自由にお出かけができない、人と会えない状況が続いている。しかしながら、このような環境変化の中にあっても「変わらないもの」の一つが、「知らないものを見てみたい」「今までにない体験をしたい」「日常から脱却したい」、といった純粋な「旅」への意欲なのではないかと考える。

 ここでは、当社で2020年2月から21年3月まで、継続的に実施してきた「新型コロナウイルス感染拡大による、暮らしや心の変化と旅行に関する意識調査」の定点調査の結果から、今後の日本人の旅行意識をみてみたい。

 まず、「今後の国内旅行についての考え方」から、今後旅行への意識をみてみよう。「今後も国内旅行をする機会はあると思うので、今は控えている」が25.2%と最も高くなったが、「自由に旅行できなくなったことにより、実際に行くことの大切さを実感した(14.4%)」「将来の旅行のために、旅行先の情報などを集めておきたい(14.3%)」という回答が、「旅行以外に楽しめることができ、旅行しないでもよいと思うようになった(6.7%)」や「オンライン旅行や土産物のネット通販などを利用すれば、旅行しないでもすむ(3.9%)」の回答割合を大きく超えた。

 「今の生活について」という質問に対しては、「家計に余裕はない(39.3%)」が最も高いものの、少しずつ減少傾向がみられる。同時に、「趣味や旅行など、必要性の低い消費をする機会を減らしている」、「趣味や旅行など、必要性の低い消費の1回あたりの単価を減らしている」という回答も減少し、旅行への消費意欲が徐々に高まりつつある様子がみてとれる。今は我慢の時期ではあるが、このコロナ禍を経ても旅行意欲は衰えておらず、むしろ実際に行きたい気持ちが高まっていると言えそうだ。

 また、別の設問ではあるが、「人とのコミュニケーションはオンラインでも十分だと感じる」という回答も減少傾向がみられた。デジタル化が進む中で、実際に体験したり、人と交流したり、といった価値が見直されつつあるのかもしれない。

 VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、4K、8Kなど、技術の進化によって、オンライン上で目にする画像や映像は、よりリアルなものになってきている。果たして人々は、そういった映像を目にすることで満足してしまうのだろうか。そのような疑問から、数年前にオンライン上での画像に関する調査を実施したことがある。結果的には、オンライン上で目にする画像や映像がどれだけリアルになったとしても、その情報によって人々は満足してしまうわけではなく、むしろ、「実際に行きたい」気持ちを後押しするものである、ということが分かった。

 最近では、徐々にオンラインツアーに参加する人も増えてきているようだ。前述の定点調査の結果によれば、国内旅行のオンラインツアー経験率は全体で11.3%、未経験者の25.5%が「今後利用してみたい」と回答した。年代が高くなるにつれ、経験率は下がるが、身の回りで「正月やお盆に家族が帰省できず、残念がっていた祖父母を誘ってオンラインツアーに参加し、とても喜ばれた」といった声を聞くことも増えた。例えば、敬老の日や誕生日などのプレゼントといった形で、若い人の参加を同時に促すことで、若い層への将来的な訴求につながる可能性もあると考えられる。

 また、「旅行先で歓迎されるのか不安なので、国内旅行を控えている」「旅行者を歓迎してくれる地域や宿泊施設を選んで国内旅行をしたい」など、自分が歓迎されるのかどうかを不安に思う気持ちもみられた。

 心理学の法則の一つに、「単純接触効果」と言われるものがある。文字通り、「接触頻度を増やすことで、相手から好意を持ってもらいやすくなる」、つまり、人はよく見かけたり、耳にしたり、といったものに愛着を持つ、という特性があるのだ。前述の通り、現在は、「将来の旅行のために、旅行先の情報などを集めておきたい」という、旅行の準備期間でもある。例えば、自分たちが受け入れられるかどうか不安に思っている旅行者へ、情報だけでなく、地元の「歓迎の意思」を継続的に伝えていくことも、その土地への愛着を醸造し、安心できる旅行先として印象づけるために重要となりそうだ。

 20年と比べて21年に増やしたい旅行について聞いてみると、「キャンプ・グランピング・トレッキングなど(39.1%)」「家族旅行(34.9%)」「一人旅(33.0%)」が上位となり、「大都市圏への観光旅行」は「増やしたい」より「減らしたい」割合の方が大きくなった。旅行の再開時には、まず、密になりにくいアウトドアや家族、1人など少人数での旅行から回復してくることが予想できる。

 また、性年齢別に今後の国内旅行予定時期を聞いたところ、3月の時点のデータではあるが、20代女性で「2021年中」の割合が42.7%と最も高く、20代男性の42.5%が僅差で続いた。旅行の再開に関しては、やはり若い世代の動きが早いようだ。

 また、「密を回避したい」という意識は、宿泊施設選びにも見られる。「国内の宿泊施設を選ぶ際に、より重視するようになったこと」という質問に対しては、「館内(ロビーや脱衣所など)で3密を避ける取り組みを徹底していること」という回答が、20年6月調査から21年1月の調査結果を比較すると、23.7%から31.4%となり、約7ポイント上昇。「個室で食事ができること」「部屋食で食事ができること」「露天風呂付きの客室が利用できること」などの割合も増加傾向となった。全体的にみて、衛生管理や密回避などに関しては、要望が高くなっている傾向がみられるようだ。最近では、子供のおままごとにも、当たり前のように「手の消毒」などの衛生管理のシーンが入ってきているという話も耳にする。食事処や風呂なども含め、館内で密を避ける工夫や、衛生管理への対応は、コロナ禍が落ち着いた後も、継続して求められるのではないかと予想される。

提言

 2020年の初頭から発生した新型コロナウイルスの流行は、当初の想定を超え、未だに私たちの生活に大きな影響を及ぼしている。特に緊急事態宣言が出された地域においては、3密回避、テレワーク、デリバリー、インターネットショッピングの利用が増えるなど、新たな生活様式が定着した。その一方、実際に旅行先へ行って体験をすることや、人と直接会ってコミュニケーションすることなどの大切さを、改めて実感する機会ともなっていることが調査結果から浮き彫りとなった。

 また、社会の環境が大きく変わり、これまでの常識が通用しなくなった半面、これまで常識にとらわれ、なかなか進んでこなかったことが一気に加速する可能性も考えられる。例えば、多様性や環境への配慮、柔軟な働き方の増加による多拠点居住などもその一つだ。

 旅行にかけていた時間が、他の趣味などに代替えされるというよりは、将来の旅行のための準備期間として使われていることも興味深い。この貴重な準備期間を利用し、旅行者との継続的な情報やコミュニケーションの場を提供していくことで、地域のファンづくり、関係人口づくりにつながっていくのではないだろうか。

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