【学術×現場 1 】SDGsの次に来るのは「ウェルビーイング」 福島規子


 経済産業省は従業員の健康管理を経営的な視点で戦略的に取り組む上場企業、いわゆるウェルビーイングで企業価値を高めている会社を「健康経営銘柄」として、毎年選定している。ウェルビーイングとは良い(well)状態(being)のことだが、日本WHO協会は世界保健機関憲章前文に示されたウェルビーイングに「満たされた状態」と仮訳をあて「ウェルビーイングとは身体的、精神的、社会的にも満たされている状態」と定義している。ただ、ウェルビーイングを掲げているのは経産省だけではない。内閣府の旗振りのもとすべての省庁がウェルビーイングに関する取り組みの推進に向け情報共有、連携強化といった横展開を図っている。

 さて、国際的に著名な心理学者マーティン・セリグマン博士は、著書「ポジティブ心理学の挑戦~幸福から持続的幸福へ~」の中で、ウェルビーイングについて次のように述べている。「ウェルビーイングとは『構成概念』であり、幸せとは『もの』である。『本物』とは直接測定できる『実在物』のことだ。そのような実在物は『操作』できる。つまり、極めて具体的な測定によって実在するものが決まる、ということだ」。

 いうなればウェルビーイングとは、気象学の「天気」のような構成概念であり、それを構成する気温や湿度、風速、気圧などが操作可能な実在する要素と言える。どの程度の気温や湿度を良い天気と感じるのかは、人それぞれだが、気温や湿度を測定することで最大公約数的良い天気を予測することはできる。同様にウェルビーイングについても、それ自体を測定することはできないが、ウェルビーイングを構成する要素を測定することでウェルビーイングな状態を作り出すことが可能になる。

 ウェルビーイングに関するモデルは多数開発されており、福井県高浜町や福島県喜多方町ではタル・ベン・シャハー博士が提唱する「SPIRE(スパイアー)」モデルをもとにワーケーション誘致を推進している。SPIREとは、次の五つの要素の頭文字をとったものである。Spiritual(幸せな人生と感じていること)、Physical(心身ともに健康であること)、Intellectual(深い学びがあること)、Relational(自分自身と他者との建設的な関係があること)、Emotional(感動、楽観的でレジリエンスであること)。

 いまや企業経営だけではなくマーケティングにも取り入れられるウェルビーイング。ウェルビーイングがSDGs同様、社会全体の達成目標となる日も遠くないだろう。

 福島 規子(ふくしま・のりこ)九州国際大学現代ビジネス学部地域経済学科教授、サービスコンサルタント。高額小規模旅館を中心にサービスオペレーションの構築や接客指導を行う。専門はホスピタリティサービスの生成過程に関する研究。博士(観光学)。

 
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