【地方再生・創生論 302】犯罪に負けない社会をつくる 松浪健四郎


 犯罪に負けない社会の実現は、令和時代に突入した最大の課題である。京都のアニメ会社員35名の犠牲者、川崎市のバス停前での小学生刺殺事件、あまりにも悲しすぎる事件が続いた。私たちの想像を超す、首を傾げたくなるような事件が、凶悪犯でもない普通の人たちの手によって起こされている。

 交通事故の問題も信じがたい人物によって起きていて、高齢者の免許証返納を巡っての議論も高まってきた。先日、よく声を掛けて下さる杉良太郎氏が、免許証を返納された。家内は、私にも返納しろと迫る。視力低下もあろうし、判断力も鈍くなる。

 「あおり運転」「逆走」、善良な運転手までもが命を落とす。地方、特に山間地に居住する人たちにとって、自動車は日常の必需交通手段、やすやすと高齢者だからといって免許証を返納させるのは難しい。各自治体は、条例によって高齢者の免許証返納をさせようと議論しても、成立は困難であろう。自主返納を期待するしかないようだ。

 さて、日本は世界に誇る安全な社会である。世界のあちこちで暮らした体験もつ私からすれば、日本が最高の模範的な社会だと思う。刑法犯罪は、平成半ばから減少傾向にあるとはいえ、検挙できない事件も多いという。で、問題は、再犯者の割合は5割だということだ。そこで刑務所内で刑務官や臨床心理士らによって、「認知行動療法」が行われている。

 犯罪者には刑罰も重要だろうが、再犯率を下げさせる必要がある。「認知行動療法」は、科学的根拠に基づいて行われるため、再犯率を30%も下げる効果があるといわれる。しかし、刑務所を出所した後、国も自治体も継続して「認知行動療法」を行うプログラムを持たない。カウンセリングや日常生活の見直し等によって、自らが行動の背景にある考え方を改めさせねばならない。再犯防止のために、行動する自治体の出現を期待したい。

 他方、2004年に被害者の権利を守るための「犯罪被害者基本法」が成立した。国の被害者支援が進み、「私たちは運が悪かった」と決めつけ、泣き寝入りするしかない社会ではなくなった。この法律は、自治体は被害者の権利を守る責務を負う、と記述している。

 自治体は被害者との関係が近く、被害者の様子を理解することができる。被害者が何を求めているのか、どんな状況下にあるのか、自治体はきめ細かく対応して被害者を助け、心身ともに頼りがいのあるパートナーになる責務がある。元常磐大学長であられた諸沢英道氏の試算(毎日新聞)では、支援の必要な人は少なくとも毎年約50万人もいるという。

 殺人、強制性交、重大な交通犯罪、配偶者や恋人からの暴力、虐待、ストーカーなどによって、身体への被害を受けて支援を必要とする人たちは数多くいるのである。精神的なショックも大きく、日常生活を失った上に経済的に苦境に立つ人も多くいることを自治体は調査し、きちんと把握して支援すべきだ。
 東京都は、被害者条例の制定を発表した。この波が全国の自治体に伝わることを強く望む。どの自治体も「被害者にやさしい町」といわれ、犯罪に負けない社会づくりのために努力すべきであろう。東京都の条例は、警察や関係機関と情報交換しながら、被害者のプライバシーを守る保障をし、被害者が気軽に役所と相談しやすい工夫がなされている。

 いずれにせよ、治安の良さを誇り、安全な町づくりに自治体は取り組まねばならない。そして、犯罪に負けない社会を作らねばならない。そのためには、再犯を防止するために、いかに「認知行動療法」を出所後も継続して行うかの研究が求められている。保護司の活躍に任せるのか、自治体が保護司とタッグを組むのか、これらの対策に取り組むべきである。

 移民国家・日本へと進みつつある今日、各自治体は犯罪に関する対応を急がねばならない。異文化が定着することによってさまざまなあつれきが生じる。犯罪の動機は予想することが困難な時代ゆえ、自治体にはあらゆる準備が求められよう。

 
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