【地方再生・創生論 299】火葬場への民間進出 松浪健四郎


 早いもので阪神・淡路大震災から27年がたった。毎日テレビのリポーターとして、私は3日後に現地に入った。信じがたい光景が眼前に広がり、地震の恐さに腰を抜かす。悲しいことに多くの犠牲者が出た。まだまだ寒い冬、路頭に迷う多くの人たちがいた。言葉を失っていた私に、1人の市民がつぶやいた。「両親の葬式を出すことができないんです」と。

 犠牲者が多すぎて、火葬場が不足していたのだ。ある著名人は、「人は死ねばゴミになる」と言われたが、まさに人間の尊厳を傷つける状況下に置かれた犠牲者たち。近畿地方のあらゆる自治体の火葬場はフル回転、火葬処理に追われた。私の故郷・泉佐野市の火葬場も協力、地元の人たちの葬儀日程にも影響を与えたのは申すまでもなかった。

 大学院生時代、上海体育学院でのシンポジウムに参加したことがある。この大学の特徴は、運動生理学やスポーツ医学の研究が盛んだったことだ。その理由が、すぐに理解することができた。校舎の片隅に布に包まれた遺体の山を発見したからだ。実習のための死体解剖に用いられた遺体だった。どのようにして死体を融通したのか、解剖実習後、どのように処理するのか、あまりにも非人道的であったので、私には質問する勇気がなかった。

 そして、私たちは東日本大震災を経験する。戦場以上だった。まだまだ行方不明の人たちが多数いる。遺体を大きな穴に一時的に埋め、落ち着いてから葬式を出すという話であったが、1人の命を軽々に扱うかの姿には誰も批判できなかった。人間として1人の人間の死を考える余裕すら与えない大悲劇、まさに「ゴミ」になってしまったかの印象を受けた。生きている限り、私たちは、喜びも悲しみも経験せねばならない運命にある。

 さて、コロナ禍は、大学の授業方法、企業の働き方を変えたばかりか、葬式の方法までも一変させた。おしなべて「家族葬」である。「3密」を避けねばならないがため、人々が集まることを許さない。故人が有力者であれば、後日「偲ぶ会を開催します」とある。家族葬ばかりだと、花屋さんが困る。遺体運搬車は、トラックの一種でトラック組合に属する。近ごろの葬儀会社は、花屋さんも運搬車経営も兼ねるばかりか、火葬場も経営する。

 地方にあっては、だいたい火葬場は自治体が経営する。迷惑施設だと決めつけられている火葬場、無煙で無臭である近代設備なのにイメージで嫌われている。誰もがお世話になる施設なのに、極めつけの迷惑施設らしい。それゆえ、市中内に設置せず、人里離れた郊外に建てるが、これも自治体であるがゆえにできる建築物であろうか。近年、2、3の自治体が協力して、大きな火葬場を設置したりもしているが、私たちは火葬費用については知らない。自治体の運営する火葬場の火葬料は、地方によって異なるが、無料であったり、1万円以下だったりする。

 ひつぎの安い物は5、6万円だが、上には上がある。が、火葬会社は、葬儀料として全て一括で請求してくるため、私たちはその費用の具体的な明細について知るよしもない。

 ただ、火葬料は東京23区が高いのだ。しかも今年から値上げされた。23区内に9カ所の火葬場があるが、6カ所は一般企業の経営である。いわば独占企業並みで、公営の火葬場は2カ所だけだ。これでは火葬料が高くとも、東京都や区役所が口を挟めない。

 地方にあっては、葬儀場に民間企業がどんどん進出しているが、今のところ火葬場への進出は多くない。自治体や住民が無関心でいると、気づいたときに民間の火葬場ができているということになる。火葬料が高くなるばかりだ。

 火葬場は、公共性の高い施設であるがゆえ、各自治体は本気になって考え、取り組んでほしい。企業が進出する穴場の分野、気を緩めると高い火葬料金になってしまう。

 一部上場企業の完全子会社が、葬儀場から火葬場の経営にまで手を出す時代なのである。

 
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