脱炭素社会の実現に向けた主要国の動きは急である。地球の温暖化を防止しないことには、CO2排出量を減らさねば、各種の大災害が待ち受ける。米国と中国が、CO2排出大国であるが、日本とて排出量を減少させねばならない。2050年までにカーボンニュートラルを宣言した日本、10年間で総額2兆円を投じる基金で技術の開発やその普及を支援するという。30年度の温室効果ガスの排出量を13年比で46%も削減する目標を表明した。
英国、米国、中国、欧州連合(EU)も日本同様の目標を掲げる。太陽光発電、風力発電によって火力発電をやめると理解しているかもしれぬが、私は原子力発電の依存だと感じている。風力も太陽光も再生可能エネルギーとして大切であるが、やはり原子力を現在の4倍前後、全体の5分の1程度を電源とすると政府は示していて、停止中の原発をやがて稼働させるハラだ。でなければ、カーボンニュートラル宣言は、絵に描いた餅となろう。
そこで、再稼働させる際、その自治体は電力会社に注文をつけることができる。原子力発電の再稼働に反対する人たちは多いが、安全を確認することができれば、自治体は有益な注文をつけて政府に協力すべきである。「原子力がなくとも電気に困らないではないか」という声もあったが、それはCO2を排出する火力発電のおかげであった。石油、石炭、LNG(天然ガス)の利用を大幅に減少させ、原子力を増加させる方法しかないのだ。
私たちは、放射能に脅える国民である。広島と長崎の悲劇をよく知っているばかりか、反原発運動から放射能の恐さを知らされている。あの3・11の災害によって福島原発事故を見せられもした。それゆえ、日本国民は世界中で一番ナイーブな感性を原子力や放射能に対して内包する。だが、放射能はレントゲンに始まり、各種病気の治療として用いられている現実も忘れてはならない。近代医学にあっては、放射線の活用は最重要となっている。
先日、停止している原子力発電所を持つ自治体の首長と議長等の幹部が私の所に来られた。私の「自治体元気印のレシピ」(体育とスポーツ出版社)を読まれて、私と会ってみたくなったという。私は、電力会社に稼働条件の中に病院建設を入れるべきだと申し入れた。放射線の中に、重粒子、中性子、陽子線等があって、すでにがん治療に活用されている。原子力発電所の中にがん治療専門の病院を建設し、全国から患者を招いて自治体の活性化に利用することを考えればいいのだ。
千葉県に放射線医学総合研究所がある。重粒子をがん患部に照射してがん細胞を殺す治療法である。群馬大等にもこの治療法を行う病院があるが、まだまだ一般的ではない。それもそのはず、この施設建設には300億円以上かかるともいわれるため、なかなか普及しないのだ。大阪府熊取町に京都大の原子力実験所があるが、ここでは中性子を用いたがん治療の研究が進んでいる。
岸田文雄首相が、初めて入閣したのは科学技術担当大臣であった。私は岸田大臣にお願いをして、熊取町に来ていただいて京大のがん研究支援の決起大会に参加してもらった。首相はがん治療に放射線が有効だと十分に理解しているはずである。毎年、100万人以上のがん患者が誕生し40万人が死んでいる。手術を必要としない治療法が、この放射線利用で世界的にも日本の技術が先行しているのだ。原発の中にこのがんのための病院を開設してはどうか。
私は、以前にエネルギー庁長官にこの話を説明した。3・11災害以前だったに加え、100歳人生の政策のなかった頃だったので、長官には理解不十分だったと思えた。がんの恐さを知らず、がんと原発を結び付けることができなかった印象を受けた。
「原発稼働反対」は根強い。その反対論を封じる策としてがん病院の併設を提案したい。2人に1人は確実にがんになる。このがん治療を原子力発電所で行えば、一石二鳥ではないか。