【地方再生・創生論 255】運動部部活の民間委託 松浪健四郎


松浪氏

 フランスの小学校を見学して驚いた。教室や校舎のあちこちに塵(ちり)や埃(ほこり)があって、お世辞にも清潔とはいえなかった。校長に「なぜ児童に掃除をさせないのか」と質問したところ、「掃除は掃除夫の仕事です」との回答。社会構造の相違、国民性の相違、教育理念の相違等にギブアップするしかなかった。所変われば品変わるを実感した。

 フランスの初等教育の中に、音楽、体育、絵画(美術)といった情操教育がない。これらは家庭教育の範疇(はんちゅう)で、両親たち、家族たちが教える。そこで街にある個々の教室に通わせる。あちこちに各種の教室があるにつけ、有料だから児童の力量は家族の所得と関係する。スポーツも同様で、名門のクラブやチームに入れようと親たちが必死になる。

 日本の小学校も体育教科は、音楽のように教科担任が認められるようになった。体育専門の先生が小学校にも配置されるから、体育の授業は楽しくなるに違いない。先生の卓越した技術を見て、児童たちは刺激を受け、さらに熱心に取り組む。教育には刺激が大切である。それでも、家庭によっては幼年時からバイオリン、ピアノ、絵画、柔道、剣道等を習いに行かせたり、サッカーや野球のチームに入れる。

 小学校ではクラブ活動が多くないため、放課後に各種の活動を日本では行わせる。私も小学校低学年から警察道場で柔道を習った。中学校に進学すると、柔道部がなかったため、やはり警察道場の町道場で柔道に取り組んだ。あちこちの中学校から習いに来ていたので、友達を多く持つようになる。指導者も高段者だったから、私も実力を上げて強くなった。

 公立中学校では、運動部活動がそれほど活発ではない。指導できる先生が多くいない上に施設も貧弱、加えて教育委員会もそれほど熱心ではないかに映る。この教科外活動は、人づくりに役立つばかりか地域の活性化にも寄与する。勉強ばかりの学校は、進学実績を向上させたとしても、これといった人材を輩出しない。教育委員会や学校は、文武両道、文武不岐を忘れてしまってはいまいか。

 アメリカではクラブ活動をExtra Curricular Activitiesと表現する。特別の教育活動として重視しているが、学校内の活動だけにこだわらない。日本がアメリカ式の教育を導入したことにより、放課後のクラブ活動も活発に行うようになったが、中学校では先生が指導者として起用される。その負担は大きく、社会問題ともなっていた。

 そこでスポーツ庁は、公立中学校の運動部活動について、民間団体等に委ねる改革を進めている。今年度のモデル事業として、全国200校以上で実施中である。その効果によっては、2023年度から本格的に民間委託を本格化させる方向にある。先生の仕事の負担を軽減させるだけではなく、より専門的な指導者を招いて、中学生にやる気を起こさせるのもいい。ただ、教育の一環、指導者として信頼を得ることも大切であるが、その指導者の資格をどうするのかの検討も重要であろう。

 中学校でも高校のごとく、必死になって熱心に指導する先生方も多くいる。休日返上、家庭を顧みることなく頑張る先生たちの評価、待遇見直しも教育委員会の仕事だ。部活動は学習指導要領で認められている教育活動であるがゆえ、指導者の責任は大きい。少子化が進み、あちらこちらの異なる中学の生徒を束ねて指導するケースも一般化する。先生でない専門家が、問題を起こさずに指導できるのだろうか。

 民間委託とはいえ、そんなに人材がいるのだろうかと心配する。大学生のアルバイト、指導者が次から次へと変わるようでは、中学生たちも困る。何よりも指導者のレベルが問題となる。子どもたちにスポーツ機会を失わせないように、社会や団体の協力が求められる。スポーツ庁がアドバルーンを上げても、各自治体に理解がないと水泡に帰す。人と金、この準備なくしてスポーツ庁の案は成功しない。その先陣を切る自治体の出現を望む。

 
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