【地方再生・創生論 251】「災害弱者」をいかにサポートするか 松浪健四郎


松浪氏

 ニューヨークの10階もある古いマンションでアルバイトを体験した。仕事は、各階のゴミ箱を地下のボイラー室に落下させ、それを燃やすこと。ボイラーの管理も大変だったが、収入は良かった。玄関の掃除もしたけれど、大家さんに厳しく言われたのは、各階の非常口のチェックだった。非常口が閉まっておれば、火災時には犠牲者が出る。非常階段に荷物を置くのも厳禁、毎日チェックした。

 ニューヨークの地盤は岩石なので、特にマンハッタンは地震が起こらないという。摩天楼をはじめ、高層ビルが林立する都市。どのビルも非常口と非常階段が整備されていた。玄関口の横にある火災のための水道栓のチェックもビル管理者の仕事。しかもこの銅製の水道栓を毎日ピカピカに磨くのも仕事だった。

 数年後の9・11、世界貿易センタービルがテロ組織に航空機によって破壊され、多数の死者を出した。跡地を「グラウンドゼロ」と呼称、私は日本政府を代表してそこへ花輪をささげる任に当たった。外務大臣政務官だった私は、日本人犠牲者たちにもご冥福を祈ったことを忘れない。英語を流暢に話すことのできたエリート日本人ですら、予期せぬテロ攻撃に敗れてしまった。あまりにも悲惨、気の毒すぎる事件だった。

 ニューヨークの高層ビルのエレベーターに乗る際、私はどの会社のエレベーターなのかをチェックした。意外に三菱製のエレベーターの多いのに驚いたが、日本技術の信頼の厚いのに胸を張ったものだ。が、非常事態の際、エレベーターは止まると覚悟しておかねばならない。非常出口、階段がどこにあるのか、知っておかねばならない。

 ホテルや旅館に泊まるときも、まず非常出口を知る。グリーンの人が走る、あの絵のデザインが目印。非常出口にカギがかかっていて、大惨事を招いた京都のアニメ製作会社の火事は、テロでもあったが防災意識の欠如が火に油を注ぐ結果となった。危機意識は、常に私たちが持たねばならない1丁目1番地だ。

 グローバル社会となって、私たちの生活周辺にも外国人が多数住んでいる。ゴミを出す日を教えた経験があるが、外国人は言語の問題もあって非常時には困るに違いない。言葉の壁を持つ外国人は、「災害弱者」であることを私たちは理解しておかねばならない。彼らをいかにサポートするか、各自治体は考慮しておく必要がある。日本特有の台風、地震、これらの災害情報の発信拠点の設置も求められる。地域ぐるみで外国人を見守るべきだ。

 川崎市幸区は、「多文化防災訓練」を行ったという。起震車による地震体験、AED(自動体外式除細動器)や消火器の使い方等を学んだ。また救急車の呼び方、警察や消防署への連絡方法を学び、「いざ!」に備えるための訓練を行ったのだ。この種の訓練は、日本語が流暢でない外国人にとっては大切であり、交流の第一歩ともなり得る。万が一のとき、外国人は大きな不安にかりたてられる。外国生活を幾度も経験した私は、外国人ファーストの思考で見守らねば、ならないと考える。自治体にあっては、外国人を「災害弱者」と決め込み、救済する方法を検討しておくべきだ。

 「炊きだし」「避難所」、日頃使わない日本語を外国人は理解できないかもしれない。訓練を行うことによって、日本という国は自然災害大国であり、特殊な言葉も知っておかねばならないと学ぶ。支援から外国人は漏れずにいるか、孤立せずにいるか、自治体のキメの細かい対策が求められる。外国人から信頼される国にするには、自治体の平素から地域とのつながりを深める企画力も大切であろう。

 怖れるのは、自然災害だけではない。毎年のように信じがたいテロ的な事件が起こっている。これらの事件からも外国人が巻き込まれないようなプログラムも訓練の中に入れてほしい。ちょっとした気転が利くことにより命を救う。これらも訓練から生まれる。貧乏学生だった私は、アルバイトでさまざまな体験をしたが、今となっては貴重なアルバイトだった。

 
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