【地方再生・創生論 244】ため池決壊対策は道半ば 松浪健四郎

  • 2022年1月14日

松浪氏

 私たちは、小中学生の頃、ため池で泳いだ。危険をそれほど感じず、上級生がフォローしてくれた。かかるため池の土手は、桜の名所となっていて、シーズンは町内の人たちの花見客でにぎにぎしかった。が、突然、その桜の木が悲しいことに切られてしまった。根が張り過ぎて、堤防の決壊の可能性が出てきたからだと耳にした。私たちの故郷原風景の中に、ため池があり、そのおかげで農業ができた。

 ため池は、周辺の田に水を供給する役割だけではなく、防災のための貯水池でもあった。大雨になると水利組合の人が、堰(せき)で水量を調節して決壊しないようにしていた。フナやコイの養殖もしていて、池を管理する水利組合の収入源ともなっていた。冬場の水量が減少した時、網で魚を取る風景は冬の風物詩だった。また、ハス池もあり、正月前にはレンコンを掘った。ヒシ池もあって、種はゆでると栗のようにおいしく、私たちは大きなタライに乗ってヒシ取りをした。

 農村部で暮らす人たちにとって、ため池は生活の中に溶け込んでいたし、農家も多かったため、きちんと管理されていた。ところが、毎日新聞の全国調査(2021年6月)によれば、全国大小約16万カ所ある農業用ため池のうち、豪雨や地震などが起きれば、実に5千カ所以上のため池が決壊する恐れがあるという。すでに過去10年で約400カ所のため池の決壊があったと報じていたが、河川や海岸などの水害に比べ対策は遅れているという。

 ため池の周辺に住宅地もあるため、決壊防止策が求められようが、問題はため池の所有者が判然としない点である。数年前、私の故郷のため池は町の所有であったが、すでに農業用に使用されていないことから埋め立てられ、土地にして売却した。が、ため池の歴史は古く、築造時期が江戸時代以前のものも多くあり、権利関係が複雑すぎるという。で、毎日新聞によれば、所有者すら不明のため池が多く、自治体が手を付けづらいという事情があるという。

 2019年7月、「農業用ため池の管理・保全法」が制定された。ため池の所有者が、都道府県に届け出を義務化させる法である。政府は、今までため池を野放しにしていたが、防災上も大切な古くからの施設であることから、まず農業用のため池を管理、保全することにしたのだ。もし決壊すれば、人的被害も予想されるだけに、野放しにできないと気づいたのである。水資源の重要性は、農業だけにとどまらないが、まず安全なため池にする姿勢を政府は明確にした。

 各自治体は、管内にあるため池の所有者を確定させ、防災用のハザードマップによって住民に危険性を喚起させる必要がある。同時に、ため池のさらなる有効利用についても自治体は住民と考えるべきである。私たちの祖先が手作業で造ってくれたため池を、大切にしつつレジャーやスポーツのために活用できないか議論してほしい。ため池に興味を持つことによって、ため池の安全、保全につながる。

 毎日新聞の調査では、「ため池決壊対策」は道半ばだという。河川の洪水、津波、静岡県熱海市のような土砂災害等の対策に、政府も自治体も傾注していて、ため池にまで対応できなかったという印象を受ける。気候の変化に伴って、毎年、大雨に泣かされる日本。ため池が全国にあるため、決壊対策に取り組まねばならないのは多言をまつまでもない。

 私たちが子ども時代、ため池の土手も遊び場だった。水際が危険という意識もなかったが、人々の農業離れが進み、土手の草刈りをする人たちも減ってきた。水利組合だけでは、遺産たるため池の管理が困難な時代を迎えている。「農業用ため池の管理・保全法」を活用して、まず安全なため池として守らねばならない。

 自治体は、所有者でないからといって、ため池に配慮しないのでは困る。大災害の可能性もある上に、活用次第によっては大きな資源ともなり得る。大賀ハスの美しいため池も魅力的で、観光資源ともなり得る。

 
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