
能登半島地震の発生で、元日からつらい幕開けとなった2024年。被災地のこれからの復興に観光が果たす役割は大きい。北陸の応援に尽くす1年になるだろう。
被災地への観光支援で期待されるのが、北陸新幹線の敦賀延伸である。2年前、電源地域の調査で敦賀を訪ね、氣比神宮や敦賀赤レンガ倉庫、日本海さかな街などを巡った。商店街を歩くと、漫画家・松本零士さんの「銀河鉄道999」や「宇宙戦艦ヤマト」のモニュメント像があって、来る人を飽きさせない。
なかでも見ごたえがあったのが、「人道の港 敦賀ムゼウム」である。戦後引揚の玄関口となった敦賀港に面した瀟洒(しょうしゃ)なたたずまいの資料館で、さまざまな歴史的資料が収められている。「命のビザ」で知られる外交官・杉原千畝にまつわる資料も数多い。
長男が小学生のときにマンガ版の伝記を図書館で借りてきて、「これ、感動するから読んだらいいよ」と薦められた。その数年後、JTB広報室から試写券をもらい、映画「杉原千畝 スギハラチウネ」(15年公開)を劇場で鑑賞した。長男は、すでに大学生になっていた。ジャパン・ツーリスト・ビューロー(当時)の職員だった大迫辰雄の役を、俳優・濱田岳さんが好演したのが印象的だ。
こうしたツールは、教育旅行の事前学習教材にもなる。今もなお、世界で絶えることがない戦争や人道支援について、深く考えさせられることだろう。
ボランティアも含め今後、北陸地方は教育旅行の目的地として発展していくことが想定される。どのような寄り添い方がよいのか、避難経路など危機管理対策の構築も急がれよう。東日本大震災での教訓を生かすことが重要だ。
北陸新幹線が長野から金沢へと延伸したのは、15年のこと。今回のさらなる延伸で、加賀温泉郷も大きなチャンスのときを迎える。今月末に都内で開催される加賀市長主催の「加賀温泉郷感謝の集い」には、応援の意味も込めて駆けつける予定だ。山代温泉、山中温泉、片山津温泉への旅の計画も進めたい。加賀市が北陸復興の原動力になってほしい。
さて、米国ニューヨーク・タイムズ紙が毎年発表する「行くべき52カ所」に選ばれた盛岡市(23年)、そして山口市(24年)は、確実に客数が伸びそうだ。
山口の名所・瑠璃光寺の五重の塔は改修のただなかだが、まち歩きで記者は日本らしい風情を感じたはず。防府や周南、岩国へも足を延ばしてくれることを期待したい。
一方の盛岡も、上昇気流を維持してほしい。筆者は「いわて観光立県推進会議」の委員を務めているが、同県のインバウンド対応が加速したのを肌身で感じる。なかでも盛岡は、珈琲(コーヒー)喫茶や料亭文化が色濃く残り名店が多い。移住相談の件数も増えたそうで、さらなる磨き上げを進めてほしい。
課題も多い。ゼロゼロ融資の返済に、人手不足の常態化で客室稼働率が上がらないところに法改正で、今年4月から労働条件明示が厳格化される。ホテル代の高騰で「出張貧乏」が続出している。旅費規程の見直しなども業界として呼びかけていく必要があろう。
竜が天に昇るが如く、辰年の観光ビジネスが上向きますよう。
(淑徳大学 経営学部 観光経営学科 学部長・教授 千葉千枝子)