【地域創生と観光ビジネス26】メディアで伝える観光 旅行系出版業界の半世紀 淑徳大学経営学部観光経営学科 学部長・教授 千葉千枝子


 コロナ禍で打撃を受けた業種の一つに旅行系の出版業界がある。 タイやフィリピンの各地を契約ライターやカメラマンたちと一緒に巡った旅行ガイドブック「地球の歩き方」。韓国版では、筆者が扮した韓国ドラマ「ファン・ジニ」の、なりきり画像を掲載してくれた。発行元だったダイヤモンド・ビッグ社は、20年、学研グループに事業を譲渡すると発表。創業メンバーが、この契約をめぐって提訴したが、認められることはなかった。皮肉なことに譲渡後は、多摩版などユニークな企画が次々とヒットした。媒体名は生き残り、かつての社員たちは、地域づくりなどで活躍の場を、自ら広げた。

 航空業界の就職専門誌「エアステージ」を発行するイカロス出版は、市ヶ谷に自社ビルを竣工する以前の、神楽坂の時代から出入りした。コロナ禍の21年8月、情報通信大手のインプレスホールディングスに完全子会社化された。同社は06年に「山と渓谷社」を、鉄道関連の出版物や映像制作を取り扱う「天夢人」を16年に傘下に収めた。天夢人の創業者・芦原伸さんご夫妻とは、その2年前に商船三井客船・にっぽん丸で南紀をご一緒したことがある。いずれも社名と、媒体の多くが生き残った。

 明治創業、老舗の実業之日本社は、かつて新渡戸稲造が編集顧問に就いた由緒ある出版社だ。旅行系の出版物では「ブルーガイド」が知られる。銀座の社屋を06年に売却して危機をしのいだが、16年には投資会社シークエッジグループの傘下に入った。それが、おうち時間が増えた21年、電子マンガ配信でコミックなどが大当たりし、好決算をはじいた。

 観光とメディアのあり方は、この半世紀で大きな変化を遂げた。戦火をかいくぐってきたのが、JTBパブリッシングの「るるぶ」である。この4月で、創刊50年を迎えた。それを記念して南青山の「旅の図書館」で、「るるぶ誕生50周年記念特別企画展示」(5月8日~9月29日)を開催するそうだ。ぜひ、足を運んでみたい。

 今はなき月刊誌「旅」の別冊として誕生したのが「るるぶ」の始まりだ。JTBの前身・株式会社日本交通公社の出版事業局がムック版で売り出したところ、若い女性を中心に、人気に火がつき売り上げを伸ばした。当時、同事業局が入居した神田鍛冶町の大木ビルは、筆者の勤務先JTB団体旅行東京中央支店が別フロアにあって、交流もあった。ときはバブル。本が売れ、団体旅行が飛ぶように売れた時代のことである。

 さて、書籍からグラビア、スチールから映像、紙媒体からネット記事、ひいてはSNSによる個人動画の配信と、観光メディアの主役は目まぐるしく変わった。言葉を紡いで文字で観光の魅力を伝える場は、時代と共に狭まってきた。 大きな脅威はChatGPTだ。AI(人工知能)に負けずとも劣らない内容で著すには、豊富な知識や経験のみならず、旅情だとか感傷、人の心理、感動や感性など、右脳をフル回転させることも重要だろう。

 ちなみに筆者には「文章の師」と仰ぐ人がいる。産経新聞社出身の寺井融さんだ。内外ニュース「世界と日本」の連載で、だいぶ鍛えてもらった。今でもエッセイ教室に通われているという。本紙を持って、まち中華で会うつもりだ。

 (淑徳大学 経営学部 観光経営学科 学部長・教授 千葉千枝子)  

 
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