【口福のおすそわけ 455】春の皿には苦みを盛れ!~前編~ 竹内美樹


 昔から、「春の皿には苦味を盛れ」といわれている。春には苦い食材を食べるとカラダに良いらしい。でも、どうしてなんだろう?
 ご存じの通り、冬眠する動物たちは、冬になる前に、冬眠中に必要な栄養を体内に蓄える。冬眠しない動物でも、寒さから身を守るため、冬は体に脂肪をため込むようにできている。

 人間とて同じだ。春になるとカラダが目覚め、新陳代謝が活発になり、体内にため込んでいた脂肪や老廃物を排出しようとするらしい。春になると鼻水や咳が出る、皮膚がかゆくなる、涙目になるなどの症状は、余分なモノを体外に出そうとする働きなのだという。花粉を異物と捉え、体外に出そうとする花粉症のメカニズムと似ている。

 こういった不調を整え、カラダの変化を良い方向に導いてくれるのが、苦味のある食材なのだそう。春が旬で苦みのある食べ物といったら、代表選手は山菜だ。蕗(ふき)の薹(とう)やたらの芽のほろ苦さを味わうと、「春が来たなぁ~」と感じる。

 じゃあ、ナゼ苦味がカラダに良いのか? 山菜独特の苦味成分の一つとされる「植物性アルカロイド」は、腎臓のろ過機能を高めて新陳代謝を促し、体内にたまった余分な水分や脂肪分、老廃物を体外に排出してくれる上、解毒作用もあるという。つまり、山菜を食べると、デトックス効果が期待できるワケだ。

 もう一つの苦味成分は、植物が光合成によって生成する抗酸化物質「ポリフェノール」。ほぼ全ての植物に含まれ、紫外線や乾燥、害虫などから身を守るために生成されるそうだ。中でも緑茶の「カテキン」や赤ワインの「アントシアニン」が有名だが、確かにどちらも苦味や渋味がある。ポリフェノールは抗酸化作用が強いだけでなく、新陳代謝や血行を促進する作用もあるとされている。

 野生の山菜は、動物や虫などの天敵に食べられてしまわないように、苦味やえぐみ、とげなどを持つようになったと考えられている。だが、その苦味を好む動物がいるという。熊である。冬眠から目覚めると、山菜の中でも一番早く芽吹く蕗の薹を探して食べるそうだ。熊は冬眠中一切排泄しないらしいが、体内にたまった毒素を苦味成分で解毒できると、本能的に分かっているのだろう。

 さて、その蕗の薹だが、正体は日本原産の山菜「蕗」の花の蕾(つぼみ)である。ハウス栽培物の収穫は12月ごろから始まり、天然物は雪解けとともに2~3月ごろから採れ始め、寒い地域では5月ごろまで出荷されるようだ。

 和え物やお浸しなどにする際は、灰汁(あく)抜きが必要。でも、天ぷらの場合は生のままでOKなので、楽チンだしムチャクチャ旨い。薄めの衣で揚げれば、サクッとした歯触りの後に、心地良いほろ苦さが押し寄せる。蕗の薹の天ぷらは、筆者の大好物。コレを食べないと春が来た気がしない。

 春の訪れを知らせてくれる山菜の中でもう一つ、甲乙つけがたいほど筆者が大好きなのがたらの芽。続きは次号をお楽しみに♪

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
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