先日、ちょっぴり気合を入れてパエリアでも作ろうと材料を買い込んだのに、気が変わってアサリだけ先に使ってしまった。翌日、いよいよパエリア作りだ!とキッチンに立ったものの、またしても気が変わり、ブイヤベースを作ることに。実は筆者、無類のブイヤベース好きなのだ。
手元にあったのは、赤エビとワタリガニとムール貝。ブイヤベースは本来魚が主役のハズだが、元々パエリアを想定して材料をそろえたから、魚がない。でもまぁいいかと、ムール貝の下処理に取り掛かる。脇から出ている足糸を、蝶番(ちょうつがい)の反対側に向かって引っ張って取り除くのだが、なかなか強情だ。足糸を抜くとスグ弱ってしまうというから、彼らにとっては生命線なのだろう。いつもここでペンチの登場となる。その後流水で洗うのだが、いろいろな物がくっ付いているから結構大変だ。
ワイン蒸しにして貝とスープを分けるつもりが、あまりにおいしそうでガマンできず、ひとまずワインのツマミとして食べることに。ぷりっぷりのウマウマ♪ 気付けば、あっという間に食べ終わっていた。
またしても、スープさえあればまぁいいかと。それに、本場ではムール貝を入れないらしい。元来、発祥地南仏マルセイユの漁師たちが、売り物にならない魚を鍋で煮た「漁師メシ」だったこの料理。マルセイユが観光地化するにつれ、地元名物料理として有名になり、さまざまなスタイルが生まれたそうだ。そこで伝統の味を守るため、1980年に「ブイヤベース憲章」なるものを制定。忠実に守った店だけが「憲章登録店」として認められるという。
憲章では、カサゴやホウボウなど、地中海沿岸の岩礁にすむ根魚の中から4種類以上を入れなければならず、イセエビやセミエビは入れても良いが、タイ、ヒラメ、オマールエビ、ムール貝類、タコ、イカは入れてはいけないらしい。
ブイヤベースの語源には諸説あるが、bouill(煮込む)+abaisse(火を止める)でbouillabaisseという説が根強いようだ。具材の魚を入れたら、魚の身がパサつかないよう、短時間で一気に仕上げるのがお約束。
提供の仕方も決められている。まず、スープにパンとルイユを添えて出す。ルイユとは、ザックリ言えば唐辛子入りニンニクマヨネーズ。コレを塗ったバゲットをスープに浮かべて食すのが本式だそう。その後具材の魚を大皿に盛り付けてお客さまに見せ、目の前で切り分けるという。
さて、わが家に話を戻そう。タマネギを炒め、カニとムールの貝なしスープを投入。17世紀に新大陸から伝来して以降、ブイヤベースに必ず入れるようになったトマトは、カット缶をドボドボ。そしてサフランを入れ、エビは殻付きのままサッと焼いてからポチャン。お手軽な瓶詰ルイユは味変のために添えたが、パンでなく残ったスープでリゾットに。あ~口福♪ おいしかったけど、一度マルセイユで本場のブイヤベースを食べてみたいな!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。