【口福のおすそわけ 450】生春巻♪ 竹内美樹


 先日、とあるタイ料理店で生春巻を注文したら、コレだけは予約がないとできないと言われてしまった。特に難しい食材を使うワケでもないのに、何だかな~とガッカリ。でも、考えてみたら生春巻って、ホントはタイ料理じゃないんだからしょうがない。ベトナム料理なんだもの。

 タイでは生春巻を「ポーピア・ソット・ユアン」と呼ぶそう。ポーピアは春巻、ソットは生、ユアンはベトナム風という意味だとか。生春巻はベトナムが発祥なのだと分かる。日本のタイ料理店ではよく見かけるが、タイではあまり一般的でないらしい。タイ出身の料理研究家が、生春巻のつけダレをスイートチリソースに換えるなどアレンジを加え、日本全国のタイ料理店に広めたそうだ。

 確かに、ベトナムのつけダレはヌクチャムだ。コレは、ベトナムの魚醤(ぎょしょう)ヌクマム、砂糖、ライムの搾り汁、唐辛子、ニンニクなどを混ぜ合わせたタレ。同じ魚醤でもタイはナンプラーだから、風味が少々違う。ヌクマムの方が、発酵期間が短いため、ナンプラーより魚の香りが強いとされる。クセはあるけど、クセになる味。このうま味爆弾に、酸味と甘味と辛味をプラスして、ニンニクも入ったヌクチャム、だぁ~い好き♪

 本家ベトナムで生春巻は「ゴイ・クオン」と呼ばれる。ゴイは和え物、クオンは包むという意味だそう。米粉でできたライスペーパーで、肉や魚介類、野菜などを巻いて食すのはご承知の通り。昔は米を砕き乳液状にした物を、蒸してから乾燥させたそうだが、最近の大量生産品はモチッとした食感や半透明の見た目の美しさのため、タピオカでんぷんを加えている。

 日本でナゼ「生」春巻なのかというと、日本に先に上陸していた中国の揚げ春巻と区別するためだったらしい。ちなみに英語では、中国の揚げ春巻がspring rollで、ベトナムの生春巻はsummer rollなのだそう。どうして「春」なのか? 元々中国では、小麦粉を水で溶き、薄く延ばして焼いた「春餅」で、春に芽吹く野菜や肉を巻き、立春のお祝いに食べる習慣があった。春巻はその進化形なのだ。

 さて、本題の生春巻だが、ベトナムでは、実は揚げ春巻の方がポピュラーだ。南部では「チャー・ゾー」、北部では「ネムザン」と呼ばれる。中国のそれと違って、ライスペーパーで巻いた物を揚げている。ベトナム好きで何度も訪れたが、確かに、揚げ春巻はあるのに、生春巻はない店もあった。

 どっちも好きだが、自分で作るなら断然生春巻。だって、揚げるより楽チンだもん! ライスペーパーを上手に巻くコツは、戻し方。水を付け過ぎるとグニャグニャになるし、少な過ぎてもパリンと割れてしまう。丁度良い具合に戻せたら、しっかり巻くことも重要。生春巻から長いニラが1本顔を出している場合があるが、コレは単に飾りではない。芯にするとキチッと奇麗に巻けるのだ。…と書いていたら、食べたくなっちゃった! 明日にでも作って食べようっと♪

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
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