【体験型観光が日本を変える30】体験交流が重要な時代 藤澤安良


 相変わらずミサイル実験を続ける国がある。英国ではコンサートの出口でテロが起こり、多くの死傷者が出た。英国だけではなく、世界各国で頻繁にテロが起こっている。命が軽んじられている。

 厚生労働省の2017年版「自殺対策白書」の概要が発表され、5歳ごとの年齢階級別で15歳から39歳までの5階級で死因の1位が自殺であった。男性の場合は10歳から44歳までの7階級で1位となった。昨年の自殺者数は2万1897人と7年連続減少しているが、未来ある若者が自らの命を絶つ割合が多い国は豊かな国とは言い難い。

 長時間労働や過労働自殺が相次ぐ中、いじめによる自殺も後を絶たず、「気づかなかった」「そんな兆候はなかった」などと、無かったことにしようとの責任逃れに終始する教育現場には辟易(へきえき)する。労働環境の改善は当然ながら、児童生徒が亡くなった事実を真摯(しんし)に受け止め、原因を究明し対策を講じなければならない。世界保健機関(WHO)は、自殺の多くは防ぐことができる社会問題だとしている。

 電車の中で、痴漢の疑いが掛かり、線路に飛び降り逃走するという事件が相次いだ。中には死亡事故になった件もあり、その対策が求められている。ストーカーの被害も2万件を超え、ストーカー殺人になったこともあり、大きな社会問題となっている。人を殺すことは、社会的に自分も死ぬようなものであり、人は殺めず、自らも死なないという、人として当たり前の観念、すなわち命の尊厳が希薄になりつつある。

 自己中心で欲望を抑えられず、人への思いやり、家族の絆や愛情を育めなかった人が増え続けていると感じている。家族も夫婦も恋人も、人との関係はスマホやパソコンでは学べない。人間力形成には、生の人間同士の交流とコミュニケーションしかない。受験勉強を中心として、暗記や計算という机上学問を重視するあまり、あらゆる体験の機会が損なわれ、人間関係構築能力が育っていない。少年少女時代は当然ながら、大人になっても、何歳になっても、人間関係構築のきっかけとなるのが、遊びや部活、スポーツであり、飲み会も含めて、あらゆる体験活動であり、旅行でもある。

 知識の多くは、ネットの検索によりある一定の答えが得られる仕組みが発達してきた。つまりは、覚えなくてもスマホなどの機器を持ち歩けば、そこそこ不自由なく暮らせる。“機械が考える”から、考えもしなくなった。車ばかり乗れば歩くのが億劫になる。出来合いの総菜や冷凍食品、インスタント食品が出回り、ファストフードやコンビニ、居酒屋が増えたから、料理を作らなくなったし、家で食べなくなった。団らんという会話の時間も激減している。

 文明の機器の発達により便利になったが、怠惰にもなった。人間力が退化する一方である。学校での体験教育、社会や組織での体験交流が極めて重要な時代である。日本社会への普及を急がねばならない。

 
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