北村氏
2021年に入り、各国で開発されたワクチンの高い効果が明らかになるとともに、世界的にワクチン接種が拡大し、且つ感染症拡大防止対策の精緻化等と併せて、ようやく今回の新型コロナウイルス感染症パンデミックも収束に向かう気配が出てまいりました。いよいよ新たなマーケットに向け、「再開」準備に入る時期を迎えていると言えます。これまでの市場と同じ部分と異なる部分を明確に整理し、来るべき新たな市場への調整が求められています。今回のパンデミックは、団体旅行の縮小、個人旅行の拡大を一層進めた可能性があります。そこで、個人市場においてポイントとなる宿泊体験に対する「個々人の体験認知」に焦点をあて、特にこの宿泊体験を構成するハードウェア、ソフトウェア、ヒューマンウェアの3要素の望ましい関係とはどのようなものなのかについて、56の3要素パターンを設定し、それらの算術平均値と顧客評価値を比較しました。以下では、３つの要素レベルについて1スタークラスから5スタークラスを想定し、1点から5点を配点し、顧客評価で身近な評価枠である5点満点で総合評価した結果と3つの要素の算術平均値との乖離率を調べました（全国男女200名に対するインターネットアンケート調査、弊会実施、2021年2月）。調査の結果、算術平均値が3.00点の3要素間の組み合わせで比較しますと、「3要素全てがバランス」とほぼ同水準で「2要素がバランスして他より良い」、次いで「2要素がバランスしつつ他の1要素が良い」、「3要素が全て異なる」という順で評価が高いという結果でした。その他詳細は以下のとおりでした。
- ２つの要素がバランスしつつ他の1つより良い場合：
対顧客評価値は算術平均値0.67点（例0,1,1）に対して+48.1％～+73.6％、算術平均値1.67点（例1,2,2）で+44.0％～+50.2％、算術平均値2.67点（例2,3,3）で+16.0％～+19.9％、算術平均値3.67点（例3,4,4）で+1.7％～+4.8％、算術平均値4.67点（例4,5,5）で△7.1％～△5.2％
- ３つの要素が全てバランスしている場合：
対顧客評価値は算術平均値1.00点（例1,1,1）に対して+33.8％、算術平均値2.00点（例2,2,2）で+41.1％、算術平均値3.00点（例3,3,3）で+13.7％、算術平均値4.00点（例4,4,4）で+1.4％、算術平均値5.00点（例5,5,5）で△7.6％
- ２つばバランスしつつ１つがそれより良い場合：
対顧客評価値は算術平均値1.33点（例1,1,2）に対して+23.6％～+26％、算術平均値2.33点（例2,2,3）で+7.0％～+8.7％、算術平均値3.33点（例3,3,4）で△0.5％～+0.5％、算術平均値4.33点（例4,4,5）で△5.0％～+0.5％
- ３つの要素全てがバラバラの場合：
対顧客評価値は算術平均値1.00点（例0,1,2）に対して+30.8％～+44.8％、算術平均値2.00点（例1,2,3）で+3.5％～+10.6％、算術平均値3.00点（例2,3,4）で△2.8％～+4.1％、算術平均値4.00点（例3,4,5）で△7.6％～+4.4％
3スタークラスを起点にそれ未満の場合、例えば平均2スターのバランスであれば、2点を超える3点,4点,5点と高評価値ゾーンに顧客側の選択肢がより広がることから、顧客評価値が算術平均値を上回る傾向が見られます。一方、3スタークラスを超える場合では、1点、2点、3点と3スター以下の顧客側の評価選択肢がより広がることから、「顧客評価値＜3要素-算術平均値」となる傾向が見られます。つまり、総合サービスレベルで3スタークラスを超える場合においては、実際の顧客評価値が算術平均値を下回る顧客評価上の傾向が見られ、一層しっかりとしたサービス要素間のバランス感覚が求められる一方で、3スタークラス未満のリミテッドサービス型ホテルであれば、何を強みとするのか、個性をしっかり持たせることに意識を集中しやすい環境と言えそうです。
一般社団法人観光品質認証協会 統括理事
㈱サクラクオリティマネジメント 代表取締役
㈱日本ホテルアプレイザル 取締役
不動産鑑定士,MAI,CRE,FRICS 北村 剛史
