【ポスト・コロナ時代に向けた宿泊施設の取り組み36】2020年度新型コロナウイルス感染症対策の取り組みを振り返り 観光品質認証協会統括理事・サクラクオリティマネジメント代表取締役 北村剛史


北村氏

 2020年1月に国内第一罹患者が発生して以来、様々な取り組みが実施されてきました。私たちは、ゼロからのスタートでは決してありません。感染症対策については、もうしばらく徹底対策が求められるものの、2021年度は、これまで1年間積み重ねてきた「ウイルス対策」という英知を得たはずです。これまで以上に安全で安心できる宿泊観光業界という新時代の幕開けとして、以下では今後より一層高度で効果的な感染症対策の実践に繋がるようこれまでの取り組みを振り返り、整理しておきたいと思います。

 まず、マスクの効果が相次いで報告されました。不織布マスクの使用徹底が求められました(夏は熱中症に、また5歳未満の小児の着用には注意が必要)。カウンターでは、パーテーション設置が望まれます。現金を介した接触感染が懸念され、非接触型の精算が望まれました。新型コロナウイルス感染症対策では、特に飛沫感染防御が徹底して求められました。飛沫については、マスク付着用であれば通常会話で1m、5分で約3,000個の飛散があり、咳で2m、くしゃみで3mがリスクエリアとなります。様々なガイドラインが提供されましたが、館内マスク着用が徹底されていることを前提に、フロントカウンター、エレベーター内、レストラン内等については、概ね1.2m以上(できれば1.5m以上)の間隔を設け、顧客同士が密集することがないように配慮することが求められました。特にレストランではできるだけ食事以外ではマスクを着用するよう促すことが求められます。また、マスク着用が困難な大浴場、サウナ等においては、できれば概ね2.0m以上の間隔を設け、顧客同士が密集することがないように配慮することが望まれます。冬場では物の表面におけるウイルス生存時間が非常に長くなることから特に接触感染対策の徹底、接触頻度に応じた適切な消毒が求められました。今回の新型コロナウイルスは「一本鎖プラスRNA」・「エンベロープ」という特徴を有するウイルスでした。エンベロープという脂質の膜を有するウイルスであることから、エタノールに高い消毒効果が見込まれました。適切なエタノール濃度(アルコール濃度ではないことに注意)で70%以上を使用すること、往復拭きではなく、一方拭きが求められました。また、冬場には、静電気によるスパークからの引火リスクに注意も求められました。次亜塩素酸水についても、様々な議論がなされましたが、公式見解では使用上の制約が依然として強く認められる状況で、その他空間噴霧についても行わないよう指導がなされました。石鹸等の界面活性剤についても9種類に消毒効果ありと報告されました。ブッフェについてはトングに接触感染リスクありと注目されました。その結果、ブッフェラインではマスクを着用する他、使い捨てのビニール手袋を提供する等の対策が行われました。また、空間中に一定時間失活せず浮遊することで起こるエアロゾル感染についても、様々な報告がなされました。宿泊施設内においても、換気の徹底が求められます。特にセントラル空調の場合では、再循環ダンパを閉じ、外気利用比率を100%とすること、その他施設では2方向換気の徹底が望まれます。

 SARSでは、トイレでの糞口感染の報告があったことから、今回の新型コロナウイルスでも同様のケアが求められ、便器洗浄では、カバーを閉じる「トイレエチケット」が求められました。バックヤードでの感染対策では、対面席配置の見直し、あるいは十分な高さを有するパーテーションの設置や換気の徹底、共有する備品等は触ったスタッフが自身で消毒することが望まれる他、更衣室では密回避、食堂ではマスク着用の励行が求められました。オゾンや紫外線(UVC)、イオン等による消毒にも注目が集まりました。それらは、効果がどれほど見込まれるのかの確認の他、正しく安全な使用方法に準拠する等が求められました。さらに、特に台湾における感染症対策の取り組み等を通じ、今回改めてSNS等での情報発信がどのように人々の行動に影響を与えるかという「情報行動」という視点に注目が集まりました。新年度はこれまでの取り組みを踏まえた、より高度で効果的な感染症対策の実践が求められます。

一般社団法人観光品質認証協会 統括理事
㈱サクラクオリティマネジメント 代表取締役
㈱日本ホテルアプレイザル 取締役
不動産鑑定士,MAI,CRE,FRICS 北村 剛史

 
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