【ポスト・コロナ時代に向けた宿泊施設の取り組み16】投融資市場が見据える宿泊施設の利回り変化 観光品質認証協会統括理事・サクラクオリティマネジメント代表取締役 北村剛史


北村剛史氏

 弊社では年2回ホテル及び旅館の還元利回り(以下「キャップレート」という)の調査を実施しています。パンデミック宣言後である2020年4月に実施しましたキャップレート調査結果をご紹介したいと思います。このキャップレートとは、ホテルの純収益から価値を求める際に使用する利回りです。「収益価値×キャップレート=純収益」より、逆に「純収益÷キャップレート⇒収益価値」として収益価値を試算する際の指標となります。キャップレートが上昇すれば、仮にホテルや旅館の価値が収益性で決まり且つ純収益が一定であるとすれば上記収益価値の計算式よりホテルの市場価値は下落することになります。ここで前提とする純利益とは、会計上の利益概念とはやや異なり、減価償却費等の償却前営業利益から、建物に関する資本的支出の積立金や、家具や什器備品に対する積立金を控除したネットキャッシュフローを採用しています。弊社のキャップレート調査では、主要各都市について、運営が安定的でありその結果ネットキャッシュフロー変動リスクが低い優良ホテルを想定してもらい、調査対象とするマーケットで最も低いリスク、つまり各マーケットに対する下限値としてのキャップレートを調査しています。ここで言うリスクとは「純収益の変動リスク」として定義しており、将来の予測からどれほどブレル可能性があるのか、その度合いの影響を受けます。例えば築古となりますと、修繕費が高額化する等その予測に大きなリスクを内在することになります。本調査では下限値としてキャップレートを調査していますので、実際に使用して収益価値を求める際には、本調査結果を参考に、建物遵法性を含めた上記建物リスクの他、権利関係リスク、環境リスク、行政リスク、テナント(ホテル運営力)リスク等の個別リスクプレミアムを加算する必要があります。宿泊施設の運営形態については、不動産の所有者が直接ホテル経営を行う直営型のホテルと、賃貸借契約に基づく賃貸型があります。賃貸型では固定賃料等の賃貸収入から求められるネットキャッシュフロー、また直営型であればホテル経営の結果得られるネットキャッシュフローと、それぞれで対応するキャッシュフローの性格が異なるため、キャップレートも異なることになります。

 宿泊施設のキャップレートは、リーマンショック以降大幅に上昇に転じ(収益価値は逆に下落する)、その後もSARSや東日本大震災等の影響を受けてきました。昨今では宿泊市場を取り巻く外部環境に好材料が揃い、2012年以降当該利回りは低下傾向を強く示していましたが、2020年は新型コロナウイルス感染症の影響を受け、キャップレート水準が大幅に上昇に転じました。前回の2019年11月調査時点におけるホテルの事業収支型キャップレート全国平均値は4.94%でしたが、2020年4月調査では同5.6%(+0.66%)であり、また2019年11月調査時点におけるホテルの賃貸型キャップレート全国平均値は4.68%でしたが、2020年4月調査では同5.29%(+0.61%)という結果でした。また旅館についてアンケート回答者数が相対的に多い箱根地区及び熱海地区のキャップレートを見てみますと、箱根地区の2019年11月調査時点における平均キャップレートは5.87%でしたが、2020年4月調査では6.83%(+0.96%)であり、熱海地区の2019年11月調査における平均キャップレートは6.62%でしたが、2020年4月調査では7.78%(+1.16%)という結果でした。

一般社団法人観光品質認証協会 統括理事
㈱サクラクオリティマネジメント 代表取締役
㈱日本ホテルアプレイザル 取締役
不動産鑑定士,MAI,CRE,FRICS 北村 剛史

 
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