都営バスでもっとも利用者の多い路線は、「王40」系統の「池袋駅東口~西新井駅前」です(2022年度)。1日あたりの乗車人員は約2万500人。新交通システムを整備してほしいくらいの利用者数で、日中時間帯でも毎時8本程度が運行されています。
平日の夕方に池袋駅から乗ってみました。バス停には行列ができていて、座席がほぼ埋まるほどの乗車率です。
明治通りのビルの谷間を走り、首都高速中央環状線の下を抜け、飛鳥山付近では都電と肩を並べながら王子駅へ。その先は戸建てや低層ビルがひしめき合う住宅街になり、やがて見上げるような団地群が目に飛び込んできます。高度成長期に開発された豊島5丁目団地で、車窓からも懐かしい雰囲気が感じられます。
団地で大勢の客を降ろすと、隅田川と荒川を連続で渡ります。荒川を渡る江北橋からは、首都高速の五色桜大橋の勇姿が。渡りきると高い建物が減り、戸建ての住宅街に。歩道のない片側1車線の都道をすり抜けるように進み、日暮里舎人ライナーの高架をくぐり抜けると、環状8号の広い道路に躍り出ます。
西新井大師を横目に見つつ、終点である西新井駅のロータリーに到着。車窓の変化が豊かな、都会のバスの楽しみの詰まった路線でした。
池袋駅東口―西新井駅前の所要時間はダイヤ上は約50分。実際には道路が混雑していて、定刻というわけにはいかず、筆者が乗った便は10分あまりの遅れとなりました。
途中乗降の少ない路線で、池袋駅や王子駅といったターミナル駅で乗車して、豊島の団地や江北の住宅街で降りるという、やや長めの使い方をしている人が多い印象でした。池袋から西新井まで乗り通した人も何人かいたほどです。日常利用でバスに1時間近く乗る客は、東京ではあまり見ないので、ちょっと驚かされました。
ただ、地図を見ると、池袋から西新井は約9キロと遠くはなく、恵比寿までとほぼ同じ。池袋から東武線方面に抜けるには、距離の割に値段が安く、乗り換えのないバスが便利なのかもしれません。この路線の利用者が多い理由は、こうした点にもあるのでしょう。
一方、王40系統は利用者数の割に収益性が高いとはいえず、営業係数は96にとどまります。長距離区間で乗る人が多いと、均一運賃制度の都バスでは採算的には厳しくなるのです。
(旅行総合研究所タビリス代表)