【テツ旅、バス旅 36】「山線」の廃止 鎌倉 淳


 20年ほど前、真冬の北海道で、函館線の長万部から小樽へ向かう普通列車に乗ったときのことです。夜遅い時間だったので、乗客はまばら。途中の倶知安で、欧米系とおぼしき外国人旅行者が1人不安そうな顔で乗ってきて「この列車は札幌に行くのか」と筆者に尋ねました。「小樽で乗り換えれば大丈夫」と教えると安心したようで、少し離れた席に座りました。

 函館線のなかでも、長万部―小樽は過疎区間で、ディーゼルカーが1両か2両で運転しています。そんな路線に外国人が夜1人で乗ってきたことに驚きましたが、いま振り返ればニセコのゲレンデに外国人が集まりはじめた時期でした。倶知安駅はニセコエリアの玄関口ですから、滞在客が利用していたのでしょう。

 ニセコが国際的リゾート地に成長した近年は、慣れた様子でローカル列車に乗ってくる外国人は珍しくありません。21世紀の日本で、ニセコ・倶知安エリアほど変化した地方都市は珍しく、函館線は唯一の鉄道路線として発展を支えてきました。

 ところが、その路線が廃止されることになりました。建設中の北海道新幹線の並行在来線にあたるためです。並行在来線は第三セクター鉄道として存続するのが一般的ですが、このエリアでは利用者が少なすぎて、維持できないというのです。

 廃止が決まったのは、函館線のうち長万部―余市間120キロ。太平洋側の長万部を発し、ニセコアンヌプリや羊蹄山をかすめ、日本海に面する余市に至る区間です。途中、四つの分水嶺を越える山岳路線で、「山線」とも呼ばれます。乗り通すと3時間程度。山あり、谷あり、海ありと、めまぐるしく変わる景色を半日で楽しめます。

 魅力あふれる路線なので、ニセコ周辺だけでも観光鉄道として残せないか、という意見もあるようです。倶知安に新幹線駅ができるので、接続すれば旅行者には喜ばれるでしょう。

 しかし、鉄道は設備投資に巨費がかかるので、観光客からの収入だけでは維持できません。一定数の地域住民が利用しないと成り立たないのですが、このエリアの人口でそれは望めなさそうです。

 大事なのは地域の公共交通を永続的に維持することです。ローカル線がなくなるのは残念ですが、新幹線とバス路線と組み合わせた、利便性の高い交通網の再構築を期待したいところです。

 (旅行総合研究所タビリス代表)

 
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