アソビューは2日、観光庁元長官で、現在は玉川大学観光学部客員教授などを務める田端浩氏が特別顧問に就任することを発表した。予約サイト「アソビュー!」に掲載する施設数は約1万、登録ユーザー数は約900万人を誇り、バーティカルSaaS「ウラカタシリーズ」など観光DX支援も好調な同社。今後、田端氏が加わり、どう変わるのか。田端氏と同社代表執行役員CEOの山野智久氏に今回の顧問就任の経緯と今後の見通しを聞いた。(1月16日に東京・大手町の三井住友銀行で。聞き手は本社・長木利通)
業界のけん引を誓う田端氏(左)と山野氏
業界全体のDX化推進 山野
皆がもっと「やんちゃに」 田端
――今回の特別顧問就任の経緯は。
田端 観光は日本の経済において極めて重要な成長分野である。その成長を推し進めるために観光立国基本法を制定し、観光立国推進基本計画を進めてきた。実現への重要施策として(1)観光DX(2)インバウンド(3)消費額の向上―の三つがある。宿泊領域は進む部分もあるが、旅ナカ消費の中心となるレジャー施設や体験業界はまだ道半ばだ。私は、観光庁長官時代からアソビューが持つプロダクトに注目し、在任中には山野さんには観光庁のアドバイザリーボードとして就任いただき、DXの観点や視点に期待していた。観光立国を推し進める企業であること、そして山野さんの「やんちゃ」な一面がある人柄にほれて特別顧問就任を引き受けた。
山野 田端さんは、国家レベルでの観光戦略を強いリーダーシップを持ち、推し進めてこられた方。われわれは、旅ナカ消費やDX、インバウンドなどを推進する会社だが、事業戦略と国家戦略の融合の視点はまだまだ足りない。そのような戦略論や、産業全体の中での関係性を、アドバイスのもと埋めていきたい。
――今後、何をどう変えていくのか。
田端 具体的には「DXによる生産性の向上」「DXによるデータ活用」、そして「インバウンドの付加価値向上商品の造成とその販路基盤の整備」に取り組んでいく。
――DXによる生産性向上について。
田端 日本の生産性はOECD加盟38カ国中23位と相対的に低い。現在は、国内外の観光客の旅行機運は高まり観光客が増えるが、観光・体験事業者を見ると、人件費の高騰などによる人手不足、業務効率化や生産性の向上が喫緊の課題となっている。
山野 人手不足の深刻さは、事業者から生の声が届いている。これまでは人員削減や事業縮小などでしのいできたが、今は需要に人手が追い付いていない。ウラカタ予約は、予約管理、受け付けなど、体験に付帯する業務をDX化し、生産性を高められるツール。生産性を徹底的に高めるほか、商品品質や単価を向上し、体験事業者全体の賃金向上ができるサイクルを生み出していきたい。
――DXによるデータ活用については。
田端 顧客の見える化が必要。アナログで運用してきた観光・体験業界が戦略的に経営を推進していくには、データの活用が重要であり、生産性の向上、さらに体験ファン増加につながる。
山野 データ活用の1丁目1番地はデータの蓄積。顧客情報をためてデータを見える化しなければならない。当社のウラカタチケット、ウラカタ分析では、観光・レジャー施設向けに年齢や属性など顧客層の見える化を支援している。観光業界が遅れているCRM施策や、リピート施策などの展開も可能になる。交流人口が重要視される中、最適なマーケティング活動、観光地・地域の来訪者増につながる。
――インバウンドへの対応について。
田端 ここには(1)付加価値のあるコンテンツの造成(2)販路基盤の整備(3)プロモーション―の三つの論点がある。観光庁では、コロナ禍の影響がある中も、外国人観光客数を6千万人、消費額15兆円を掲げ、国も重要さを示している。昨年10月からは渡航制限の緩和が始まり、回復の兆しが見えてきた。日本は豊かな自然と四季を持つ中、付加価値の高いコンテンツを造成することは十分可能であり、観光庁も支援している。販売基盤の整備に関しては、伸び代があると言える。
山野 販売基盤の整備は課題だ。FITが今後増加することを鑑みると、訪れる観光客の顧客増を見える化、かつ施設側のオペレーション負荷も増やさず実現することが重要。当社は、昨年10月に約5千の販売パートナーを持つKlookと提携した。この5千社がアソビューで掲載される国内の体験商品を購入できる。提供する施設側は、当社のウラカタでKlookを経由する全ての販売パートナーからの購入情報を一元管理することが可能になった。
――最後に一言を。
山野 観光領域を含むあらゆる産業で国を挙げてDXが叫ばれている。国や自治体が管理する公共施設がリーダーシップをとってDXをけん引していき、産業全体のDX推進が実現することを目指すべきだ。田端さんにはその旗振り役になっていただくことを期待している。
田端 コロナ禍で日本全体が慎重になる中、この空気感を変えて突破するには、仕事も遊びの旅行も含めて人の交流が必要だ。観光産業に携わる人には、「もっとやんちゃになれ」と言いたい。今年変わらなければ、世界から取り残されることになる。まず自分たちの動きを変え、活力を持って進んでほしい。