多摩ニュータウンの造成現場を実習で訪れたのは1980年代後半。この地域に再び関わるとは思いもしなかったが、縁あって2014年、地域と大学・学生との連携・交流というミッションのもと、教員になった。校舎は丘の上に位置し、敷地は擁壁に囲まれている。学生と共にこの擁壁を越えて地域に出て行き、受け入れてもらえるだろうかと、不安と共に高い壁を見上げた。
しかし動き始めてみると、市役所には地域協働課等の部署があり、市民活動のリーダー格の方たち等との距離も近い。役所の紹介で幾人かの方とお会いするうち、大学近くの自治会のT会長様とお話が進んだ。実は、前職は地域計画系コンサルタントの新米教員で、学生に何ができるか教科書で学んでいるだけなのですと正直に打ち明けたが、T様は「地域・大学共にウインウインの関係になれると良いですよね」とにこやかに仰り、早速、自治会とゼミ生との交流をご快諾いただいた。
以来、コロナ禍前の5年間、自治会恒例の夏のイベントにゼミ生が参加させていただき、秋には自治会役員と協議を重ねて、世代を超えた交流や楽しく学ぶ防災訓練等のイベントを企画・実践できた。コロナ禍と共に自治会活動が休止すると、偶然にもそのタイミングで、当該自治会内に活用してほしい空き家が出てきたとお声掛けをいただき、今度はお家の所有者様と協議を重ね、コロナ禍を縫って交流・防災イベントを実施、地域の方等をお招きした。こうして8年間の得難い経験の中で本当にたくさんの笑顔を頂き、多くを学んだが、とりわけ実感するのは、継続してきたからこその、人の輪の着実な広がりである。折に触れ協力・参加し、楽しんで下さる地域の皆さま、ご理解ご支援を続けて下さる皆さまに、月並みだが、感謝で一杯という他はない。
高度経済成長期の国土政策による大規模ニュータウン。その再生は国家プロジェクト百年の都市計画の膨大な課題ではあるが、Think Globally’Act Locallyの教えの通り、足元の地域をしっかりと見つめたい。ここには新住民の集合だからこそコミュニティ形成に力が注がれてきた歴史とそこに築かれた「人の基盤」がある。そして、「動き続けることで、人が人を呼び、活動が活動を呼ぶ」、その小さな磁力の連鎖から、地域の人の輪・笑顔と愛着の輪が育つと確信する。小さな磁力から人の輪と地域再生の芽を育みたい。
(帝京大学経済学部観光経営学科准教授 今野久子)