
病院やオフィスなどインテリアデザインの経験を経て、ホテル・旅館など宿泊施設を中心としたデザインに携わるようになり10年がたつ。もともとホテルで感じられる非日常感にときめき、ホテルの仕事に携わることに興味があったからか、いまだにその仕事の奥深さと面白さ、また、難しさを日々痛感している。
そんな中、コロナ禍で自宅にて映画鑑賞する機会が増え、映画「カーライル ニューヨークが恋したホテル」を偶然見つけた。ホテルに対して抱いていたラグジュアリーな世界を感じられる興味深い内容であったので、ぜひこの機会に少しでも共有できたらと考えた。
「ザ・カーライル ア ローズウッドホテル」は、ニューヨークのアッパーイーストサイドにある5つ星ホテル。1930年に開業してから数多くの著名人を顧客として持ち魅了してきた。ヨーロッパのグランドホテルの雰囲気とニューヨークのエレガントさを併せ持つ他のホテルにはない艶やかさが感じられ、また、多くの著名人に愛され続けている故にたくさんの伝説が残されているまさにニューヨークの歴史の一部とも言える存在である。
インテリアを手掛けたのは1923年にアメリカで最初のインテリアデザイン会社を創業させたドロシー・ドレーパー。大胆なカラーリングと優雅さが特徴的なデザインは「ドレーパータッチ」と呼ばれている。当時ニューヨークの建築に多くみられたアール・デコをベースにした遊び心ある装飾は、古き良き時代を感じさせつつ、今なお新鮮で人々を魅了し続けている。ホテルにはそれぞれに個性的なレストランやバーもあり、ゴシップ好きにはたまらないエピソードを交えて紹介されている。
映画の中で特に印象的だったのは、ホテルの雰囲気づくりにおいてデザインが果たす役割以上に圧倒的な役割を果たしているのが、映画の主役とも言えるホテルスタッフやサービスであり、彼らがホテルの風格を作り上げている点であった。
この映画は、そんな皆さまと共にデザインを通してホテル・旅館づくりができる素晴らしさを再認識させ、「最高の体験」を一緒に作っていきたいと心を躍らせるひと時を作ってくれた。
(一般社団法人日本宿泊産業マネジメント技能協会会員 株式会社ディー・ピー・インターナショナル チーフデザイナー 山口彩子)