
「2023年4月に再び値上げが検討されており、その数は5千品目におよび、値上げラッシュとなる見込みだ」。このような報道に頭を悩ませている方も多いと思う。一方、帝国データバンクの調査によると「価格転嫁できていない」と回答した企業の中で、サービス関連35%は全体業種の17%を大きく上回ったという。これが何を意味するかであるが、「世の中全てが値上げトレンドであるが、宿泊産業を含むサービス業だけがその流れについていっていない」ということであり、これは改善していかねばならないと強く感じる。
経営者と接する中で感じるのは30年の長きにわたり染みついてしまった「デフレマインド」が大きいという点である。どちらかというとご年配層に多く、若手経営者はちゅうちょすることなく値上げに踏み切っている印象である。経営とは意思決定の行為なので、まずはそのデフレマインドをチェンジすることから全てが始まると思われる。
本コラムでも取り上げてきた観光庁が後押しする高付加価値化事業なども「施設の付加価値を上げ、価格を上げていってください。そのためのサポートをしますよ」というメッセージで、今後の観光施策はこの方針であることは明確だ。
さまざまなエリアの価格を定点観測していると、1泊2食付きで1万円を下回るような旅館は激減しており、良い傾向であると思う。ただ、コスト上昇分のみ価格転嫁したのみでは実は不十分なのである。そこに、きちんと自社の利益となる部分の価格転嫁もしていかねばならない。なぜならば、今後において争奪戦となる人材の獲得において、しかるべき待遇を示せない施設は人材が獲得できなくなってしまうからである。つまり、人件費アップや待遇面の改善なども織り込み、それに耐えうるような収支構造にしていかないと、今後サービス業を営んでいくことが難しくなると思われる。
全体的に厳しい意見となったが、値上げをすべき局面で実行しないという歯がゆい思いをすることが数度あったので、デフレマインドとの戦いが根深いと感じ、本テーマに至った経緯がある。今こそデフレスパイラルからの脱却を試みる時であると思う。
(アビリブ・プライムコンセプト代表 内藤英賢)