全国旅行支援で市場が活気づき、満室が続くような旅館も多々見受けられる。しかし、実情を聞くと部屋は空いているという。どういうことかというと、スタッフの人手不足により、一定以上売れてしまうと受け入れができないので事実上の満室扱いにしているという状態である。
総務省の発表によると、宿泊業の就業者数はコロナ前となる2019年8月時点で66万人であったのが、22年8月時点で51万人と実に20%減、実数にして15万人が離職したことになる。これでは需要が戻った今、人手が足りないのも当然の結果である。特に体感としては、料飲スタッフ、調理場スタッフ、清掃スタッフが不足している印象である。そして、これは一朝一夕で解決できる問題ではない。本コラムでも何度か採用活動に関する提言を実施していたが、それでも15万人の損失をカバーするには至らないことは明白である。
そこで逆転の発想であるが、旅館の中で全て1泊2食を賄うという発想を捨ててはどうだろうか。1泊2食は現在いるスタッフ分のみで販売ストップとして、あとは外部の飲食店をうまく活用して地域一体となってカバーをするという発想である。お客さまは旅館やホテルの中で絶対に食べたいわけではなく(もちろんそういう人もいるが)、「その地域のおいしいものを食べたい」というのが本質的ニーズである。したがって、周囲でその地域の食事が楽しめるような飲食店と協力して、紹介すればお客さまのニーズは満たせる。
地域の飲食店に人が流れるようになれば、新たに開業しようとする人も増えるかもしれず、結果として地域全体として活気づく可能性がある。また、今後、増加する海外のお客さまは何泊もするケースも多く、その場合においても食の多様性は大事なポイントである。
「周囲の飲食店が閉まるのが早い」や「不定休でご案内しにくい」という意見が聞こえてきそうであるが、それはニワトリとタマゴの話である。そこにお客さまがいるのであれば必ず商売は発生する。やる気のある飲食店街の人たちと話し合いの機会をもって、どうか三方良しの形ができるようにいろいろと試みてほしいと思う。
(アビリブ・プライムコンセプト取締役 内藤英賢)