【インタビュー】鬼怒川グランドホテル夢の季 代表取締役 波木恵美氏

  • 2022年11月3日

波木社長

鬼怒川温泉と中国の不思議な縁

 春と夏とが慌ただしく過ぎ去り、季節はこれから秋、そして冬へと向かう。日本政府は、10月に入って入国規制緩和、外国人の個人旅行を解禁しました。【記事提供:人民日報海外版日本月刊

 コロナウィルスの流行が始まって3年、ウィズコロナの時代にあって、日本の観光業界は外国人観光客を受け入れる準備ができているのであろうか。先日、関東屈指の温泉地である鬼怒川を訪れ、鬼怒川グランドホテル夢の季の代表取締役である波木恵美氏にインタビューをおこなった。

 波木女史はなかなか奇特な企業家で、80年代から単身で中国と日本を往来し、中国の京劇を日本人に広めるため、また、日本人が中国の京劇に興味を持つために多大な貢献をされた方である。

 

善きかな:これからの旅行の キーワードは「環境」

 ――日本の旅館業界の代表として、これからのウィズコロナの時代、人々の旅行モデルにはどのような変化が起こるとお考えですか。

 波木 コロナが長引いているため、誰しも家にいる時間が長くなりました。家での生活について真摯に考え、身近な人に対する関心がこれまでになく高まっていると思います。これは日本に限らず、世界的に見ても同じことが言えるのではないでしょうか。その一方で、旅行に出かけることへの欲求は以前にも増して強まっていますし、もっと多くの人と交流したい、五感で大自然を感じたいといった渇望を覚えているでしょう。さらには環境問題に対する意識の高まりも見逃すことはできません。感染拡大防止のための外出制限が行われたあと、少なからず自然環境に改善が見られたことは多くの方がご存じのことだと思います。

 つまり、コロナの長期化によって、誰もが自分自身の生活を見つめ直し、家族や友人のことをより親身に思い、それと同時に、環境問題や持続的な社会の発展について、いっそう関心を持つようになったのです。コロナを経て、観光旅行に対する考え方が変わったと思います。これまでの日本人の旅行の傾向としては、一泊二日の短い単純なものが主流でした。今後は旅行に対して、更に心と身体の開放という更に大きな期待(旅行の価値の変化)を持つようになるでしょう。そして心の慰めや楽しみ、あるいは旅行によって感化されたり示唆を受けたりといったことをもっと得たいと思うのではないでしょうか。そういった需要の変化に対して、私たち観光業界もより大きな付加価値をつけるよう努力しなければなりません。旅行中はもちろん楽しく、そして帰りには多くのことが満たされている、自分の中で何か変化した、そう感じてもらえるのが理想的だと思います。


 

勇ましきかな:中国に来た 日本人観光客に京劇を広める

 ――今年は中日国交正常化50周年に当たります。鬼怒川グランドホテル夢の季は、昨年創業55周年を迎えました。これまでの55年間で、きっと数多くの中国人旅行客がここで素晴らしい思い出を作ったことと思います。波木社長はずいぶん前に中国で起業されたと伺っておりますが、やはり中国に対して何か特別な思いがあったのでしょうか。

 波木 その点については、ある映画のことからお話しする必要があります。大学卒業後、広告会社に就職しましたが、毎日忙しい日々でした。そんなとき、偶然見たのが中国の「少林寺」という映画でした。そして不思議なことに、中国武術の少林拳で本当に優勝した武闘家達が演技しているその映画を見終わると、なぜか私の心は晴れ晴れとして、清々しい気持ちになったのです。

 実はそれ以前にも、中国の歴史に興味を持っていました。「少林寺」は、中国語を勉強したいという私の気持ちをぐっと後押ししてくれたのです。その後、京劇の大家である梅蘭芳氏のご子息の梅葆玖氏が京劇の劇団を率いて来日し、日本で公演されると聞いて大喜びしました。東京公演では4、5回ほど見に行きました。歌詞は聴き取れませんでしたが、優美なしぐさと立ち回りにはとにかく魅了されたのを覚えています。その地方公演を見に行くために、勤めていた広告会社を休んだほどです。

 日本での全公演が終わり京劇団は東京に戻った時、私は京劇団が宿泊していたホテルに足を運びました。ロビーは数多くの華僑の方々でごった返しており、日本人は私一人だけでした。「何をしに来たんだ?」と何度も尋ねられましたが、私が京劇のファンで、それも「真仮孫悟空」の「真悟空」を演じる俳優のファンだということがわかると、ある老華僑は私を自分の経営しているレストランに迎え入れてくれました。そこでは、当時日本では珍しかった羊のしゃぶしゃぶをご馳走になりました。その後、中国の対外的な開放が始まると、私はすぐに中国へ旅行し、北京で京劇を鑑賞しました。

 鬼怒川グランドホテル夢の季を創業したのは両親です。私もそれまで勤めていた会社を辞めて家業を継ぎましたが、経営方針が一致せず、父と仲違いして家を出ることにしました。その時、日本を離れてこれから大きく発展する中国で何か挑戦してみようと決意したのです。

 そんな私にとって心の拠りどころとなったのは、やはり京劇で、少しでも京劇に関わる仕事ができればと思ったのです。当時、日本から北京に来るツアーには、たいてい中国雑技団鑑賞が組み込まれていました。私は日本人の皆さんに、中国伝統芸能の中でも、国劇である京劇の文化に触れてもらいたい、京劇を通して中国を感じてもらいたいと考えました。ですが、一般の日本人旅行客はみんな中国語がわかりません。そこで劇場と組んで、日本人観光客のために、日本語で歌詞やしぐさ・動作など京劇の説明が流れるイヤホンを貸し出すサービスを始めました。当時の劇場では、非常に斬新なものでした。

 こうして京劇のイヤホンサービスを始めたのですが、それがきっかけで日中の合弁会社に助けられ、その会社内に企画開発部を立ち上げてもらいました。それが1995年頃です。約4年間お世話になり、その後独立して中国の友人と共に起業し、引き続き京劇を日本人の観光客に広めることに力を尽くしました。無料で子供京劇講座を開催したり、北京日本人学校では京劇体験・鑑賞を開催したりもしました。

 いつか京劇団を日本へ招聘して日本公演を開催したい、という夢を胸に抱いて日本では日本京劇振興協会を立ち上げ、友人(票友)や華僑の皆さんと京劇普及活動をしていたところ、奇しくも2002年、東北と東京での公演が実現し、私の夢が叶ってしまいました。(二回目の招請は2012年の春節の頃でした。)

 その頃から以前より病気であった父の具合が更に悪くなり、国内の大型団体旅行客は個人客に変わり、次第に減少し、地元銀行の破綻などもあり、鬼怒川温泉街全体も不況に陥りました。私は鬼怒川に再度帰り、もう一度家業を手伝い温泉旅館の経営を好転させることに尽力しました。

 2003年、小泉純一郎氏が総理大臣のとき、政府は「観光立国」を掲げ、ビジット・ジャパン・キャンペーンという新たな戦略を推進しました。私は中国で仕事をした経験がある者として、自分の旅館だけでなく鬼怒川の温泉街全体に、海外からお客様に来ていただくために、観光協会からの要請もあり、自身の経験を地元で生かそうと考えました。

 

珍しきかな:中華街のない 鬼怒川の春節

 ――そういえば、波木社長はビジット・ジャパン・キャンペーンのVISIT  JAPAN大使であり、NPO法人鬼怒川・川治温泉観光協会訪日外国人誘致委員会の委員長でもありました。コロナ以前、日本のメディアによれば、中国人観光客は日本が観光立国を推進するための重要な要素であると同時に、一部の旅行客の振る舞いは日本社会の関心事にもなっていました。鬼怒川温泉街はどのようにして中国人観光客を受け入れてきたのか、その点についてお聞かせ願えますか。

 波木 中国人観光客を迎えるにあたり、言葉がわからずこれまでなじみの薄い中国のお客様に対しての受け入れは、多くの旅館にためらいがあったようですし、具体的に何をどうすればいいのか分からないといった感じでした。ですが、2、3年も経てば慣れてきて、中国人観光客を歓迎するようになりました。なぜそのような変化が起きたのか?或る旅館が話したことは、たった5つの単語を覚えただけですが、相手を理解しようと対応したので中国人観光客とうまくコミュニケーションが取れたということでした。その中にはリピーターとして再訪してくれたとのことです。日本も漢字を使う国ですから、意思の疎通は思っていたより容易にできたようですね。

 2004年からは、前記の訪日外国人誘致委員会を引率して中国への視察・プロモーションを始めました。また鬼怒川温泉においては「春節祭」というイベントを開催し、春節の長期休暇を利用して日本を訪れる中国系観光客を精力的に招致しました。

 委員会メンバーで春節祭用品(紅灯)などを北京に行って大量に買い付け、駅前や各旅館に配布して飾ってもらい、鬼怒川温泉街の内外で春節の雰囲気を作ってもらうと同時に、宿泊された海外のお客様には日本の伝統的なお正月文化、例えばお餅つきやお屠蘇振る舞いなどを体験していただきました。

 さらには海外からお越しのお客様限定で、鬼怒川の二大テーマパーク、日光江戸村と東武ワールドスクエアでは4日間限定ですが無料で入場できるというサービスも提供しました。これは中国の春節の習慣にならった「紅包(お年玉)」ですね。

 他にも温泉地区内のバスの無料乗車券の配布や観光施設などの特別割引企画など、様々なおもてなしを打ち出しました。おかげ様で、2011年まで春節の時期には中国圏から大勢のお客様にお越しいただき、日本各地からも鬼怒川温泉春節祭を視察に来て、全国でも様々な春節祭が開催されるようになりました。

 日本で春節を祝うイベントは以前から横浜、長崎、神戸などの中華街でありましたが、鬼怒川春節祭はおそらく日本で唯一、チャイナタウンの無い地域で自発的に行われている春節イベントではないでしょうか。

 そうは言っても、実は鬼怒川で春節祭を楽しむお客様の8割は日本人なんですけどね(笑)。それでも、私たちの春節祭を通じて、日本の皆さんに中国の伝統的な民俗文化を知り、触れてもらえたらいいと思っています。

 来年以降は、春節祭の内容を変化させて新たなおもてなしをする予定です。

 

美しきかな:夢の季で味わう 日本体験の旅

 ――観光業はいわゆる平和産業の一つです。中国で独立起業をされたこともある波木社長でしたら、この点について特に思うところもあるのではないかと存じます。海外からの観光客が鬼怒川グランドホテル夢の季で過ごすとき、どのような宿泊体験をしてほしいとお考えでしょうか。

波木 中国で起業したときのことを思い起こせば、それはもう大きな試練を受けたというのが偽らざるところです。ですが、多くの中国の友人達にも物心両面で支えてもいただきました。そのおかげで精神的にも強くなりましたし、臨機応変に物事に当たれるようになったと思います。その時の経験があったからこそ、壁にぶつかったり行き詰まったりしたときでも、みんなで力を合わせて知恵を絞り出せば必ず道は切り拓けると信じるようになりました。

 海外から来てくださる皆さまには、夢の季で日本特有の文化を体験していただけます。浴衣を着たり、温泉に浸かったり、和食を召し上がっていただけるのはもちろんのこと、四季折々色彩豊かな変化を見せる美しい日本庭園もご覧いただけます。ここでの宿泊は小さな日本体験だと言えるでしょう。

 そうした体験を通じて、お客様には楽しみや驚き、和の華やかさや安らぎを感じて満足していただけると思いますが、さらには両国の文化の違いを知ることで、日本文化に対してより興味を持ってほしいとも願っています。もっと日本のことを知りたい、もっと日本人と交流したい、そう思うことが相互理解につながりより良い関係が生まれると信じています。そのきっかけを提供すること、それこそ私がこれまで尽力してきたことであり、そしてこれからも尽力していくことなのです。

【記事提供:人民日報海外版日本月刊

 
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