跡見学園女子大学「観光温泉学(温泉と保養)」の2022年度春学期の最終レポートで、「温泉地や旅館の未来をデザインする」と題して、251名の履修生に、行きたい温泉地や旅館を書いてもらいました。中にはとても興味深いアイデアがありましたので、その一部をご紹介します。
まず彼女らの世代が旅をする目的の一つは、写真を撮り、SNSにアップロードすること。その点では、写真映えするかどうかが集客のカギです。
また彼女らは宿泊先に旅館よりもホテルを利用する機会が多いのですが、その理由は「写真映え」「旅費が安い」「(都市ホテルの)観光地への移動の便利さ」でした。旅館に泊まるメリットは「浴衣を着ることができる」「懐石料理を食べられる」「温泉でリラックスできる」が理由になりますが、どうしてもネックになるのは、旅館の方が料金が高いというイメージです。ホテルは5千円~1万円内に収まるが、どうしても旅館は1万5千円~2万円ほどかかるという感覚です。ただ「コロナでは多少高くとも温泉でリラックスしたい」というニーズは増えつつあるようです。
そうした彼女らの意識を下地にして「『千と千尋の神隠し』や『鬼滅の刃』といった人気のアニメとコラボ」「カラフルでポップな温泉旅館」といった、彼女らと親和性の高いアニメやデザインを取り入れるという案がありました。
一方で、西武遊園地が掲げる昭和レトロへの人気を踏まえて、「私たち世代は昭和レトロが新鮮で珍しいから、これを全面に出した旅館」という提案も。この点は私も同意です。というのも、旅館の増改築はどうしても今の流行を追いがちで、結果的にどこも似たようなデザインになっています。あえて逆を行って、昭和レトロをコンセプトにすれば差別化ができますし、2025年で昭和100年を迎えますので、その機に回顧する風潮が強まりそうです。
多くの学生たちは、泉質を知る、また分析表を解説するアプリの開発を提案してきました。
これは分析表の見るべきポイントや泉質の解説を再三授業でやったことで、「はじめて知って、温泉により関心を持った」からです。温泉そのものを深く知ることができて、分析表の意味が分かれば、温泉旅館に泊まる料金は決して高くないという感想もありました。
私たち旅館業界も意識を変えて、温泉入浴の価値を旅館側からきちんと分かりやすく示す必要がありそうです。
さらに発展したアイデアが温泉のテーマパーク化。学生たちは「泉質ミュージアム」と名付けていました。1カ所に滞在するだけで、11の泉質が全て体験でき、入り比べをして、自分と最も相性のいい「マイ温泉」を見つけられるという施設です。面白い発想ですね! 「マイ温泉」を相談できるカウンセラーが欲しいという案もありました。楽しみながら泉質を学べるよう、泉質を擬人化して親しみやすさを出すというアイデアも。
独特な企画は「産後ケアに温泉を」という考えのもと、「出産後の女性と赤ちゃんが快適に過ごせる旅館」が印象に残りました。他には「大学に温泉施設を併設し、空き時間に入りたい」、漫画「金田一少年の事件簿」をオマージュした「謎解きが仕掛けられた温泉旅館」などでした。
こうした具体的な提案とは別に、私も最も共感したのは、「子供が滞在しやすい旅館」です。子供の頃から旅館を体験しておくと、成長してからの旅の滞在先に旅館を選ぶ確立がぐんと上がる。だから子供連れの家族連れの接遇が向上するのを期待するというものでした。
私自身も学べる機会だからこそ、来年(2023年度)も講義を続けたいと願っています。
(温泉エッセイスト)