【ちょっと よろしいですか 70】自然災害の報道のありかた  山崎まゆみ


山崎氏

 この夏は度重なる豪雨災害のニュースが流れます。各地でお世話になった方々の顔を思い浮かべては、案ずる日々ですが、どのタイミングでお見舞いの連絡をすべきか悩みます。そんな時は、その地域の宿関係者のSNSを確認するようにしています。

 先日の豪雨が大きな被害をもたらした佐賀県嬉野温泉和多屋別荘の小原嘉元社長も、SNSでご意見を示されていました。強く共感しましたので、一部を抜粋してご紹介します。

 「8月14日未明の大雨により、降り始めからの降水量千ミリメートル超という嬉野の文字と、弊社の一つの浴場の冠水被害がテレビ・新聞などのマスメディアに連日報道された。(中略)ここ数年はよいニュースばかりを取り上げてもらっているので、このような事態においても、事実を伝え、復旧の側面を強調したニュースソースとしてメディアの取材受けに踏み切った」

 「しかしながら、九州のニュースはおろか、全国ニュースにおいても、千ミリメートル超と重なるように弊社の浴場水害が報道され、無傷の他の数十軒の宿や嬉野のエリアに少なからず、ネガティブなイメージを植え付ける結果となった」

 「メディアにもスピードと事実を伝える大義があり、このような事態におけるメディアとの付き合い方、嬉野市、観光協会、旅館組合として情報および提供タイミングの在り方など多くの学びがある」

 自然災害のニュースは、最も被害が大きい、衝撃的な映像が繰り返し流されます。そのため視聴者に被害映像が徹底的に植え付けられてしまうのは、私もどうにかならないものかと思っています。災害が終息してもなお、過去の出来事として延々と流されることもあります。

 私も人に伝える仕事をしていますので、「分かりやすく伝えるには、その事象を象徴する短い映像が効果的」ということは理解します。

 ただ、映像メディアの皆さんは、もちろん悪意はないでしょうけれど、その映像が視聴者に、どれほど衝撃的な記憶として刻まれるか、自覚しているでしょうか―。

 小原社長の文書を読みながら思い出したのは、2018年の群馬県本白根山噴火が草津温泉にもたらした影響です。噴火警戒レベル3の本白根山から、草津温泉までは5キロ以上離れていて、温泉街は危険が及ぶ位置にはありません。

 しかし、噴火を伝える映像には、必ず草津温泉の文字も出てきます。よって草津温泉が危険であるかのような印象が残ります。この対策として黒岩信忠町長は、「安全宣言~草津温泉の今~」と声明を出しました。それは「噴火は蒸気噴火であり、マグマが温泉街に到達するようなこともない。草津町は情報収集を行いサイエンスの視点から対応しておりますので、安心して草津温泉にお越しください」といった正確な情報です。これを町役場、観光協会、旅館組合から発信する情報として、統一していました。当時はインバウンド最盛期でしたので、英語、中国語、韓国語でも表明していたのを覚えています。

 新型コロナウイルスがまん延する前は、「観光」は成長産業として大きく期待され、実際目覚ましい収益を上げていました。コロナが収束する頃には、また成長産業となるでしょう。観光は日本を代表する産業なのです。

 ですから、観光業界として映像メディアに、災害映像を繰り返して使うことへの危惧を認識してもらってはいかがでしょうか。被害エリアも正確に報道してほしいものです。

 近く、熊本豪雨災害により大きな被害を受けた人吉温泉に行ってきます。状況をまた本連載でお伝えします。

(温泉エッセイスト)

 
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