9日に新潟市で新潟県観光協会(会長は花角英世知事)と新潟県旅館ホテル生活衛生同業組合の共催で、3年ぶりに「新潟観光フォーラム2023」が開催されました。
開会のあいさつで新潟県旅館ホテル生活衛生同業組合理事長の柳一成さん(松之山温泉「ひなの宿ちとせ」社長)が「これからの新潟の観光はインバウンドの招致、DX化、自己財源がポイントになる。新潟の観光資源を資産に」と、力強くお話しされました。その後、2名のご講演と、「インバウンドカレッジから見えてきた新潟の勝ち筋」と題したパネルディスカッションが行われました。参加してみて心に残ったことを列記してみます。
まずウィリアム・ロスさんの講演は「世界から見た新潟」と題し、「アドベンチャーツーリズムのマーケットは知的レベルが高くて高収入の客層であり、獲得したい。ただ新潟は来れば素晴らしい所だが、外国人から見れば何があるか分からない。日本酒でもスキーでもいいから、何かをフィーチャーしてほしい」という内容には私も賛同しました。
もう一人の講演者である燕鎚起銅器の老舗「玉川堂」(ギョクセンドウ)の山田立さんは、「新潟から世界へ伝えるものづくり」というテーマで、2021年度観光庁長官表彰も受けた「燕三条 工場(こうば)の祭典」の経緯をお話ししてくださいました。
「燕三条 工場の祭典」とは普段は閉ざされているものづくりの現場を一斉に解放し、見学・体験できる機会を設けるオープンファクトリーのイベントで、2013年から始まりました。コンセプトは「燕三条は工場で、人をつなげる」。夫婦でやっている小さな工場から100人のスタッフを抱える大型工場まで、見て回ることができます。包丁や鎚起(ついき)カトラリーなど、誰もが興味を持ちやすい食に関する物品の製造工場が多いことも、見学者が広がりやすかったのでしょう。
期間中は車で1時間圏内に100前後の工場が開放されていますが、1日では多くても7~8カ所しか回れません。その結果、リピーターとなるお客さんが多く、男女比は6対4。写真や動画をSNSで発信してもらっています。
来訪者数は2013年の約1万名から19年は約5万6千名に激増。この間にイベント期間外に工場を公開してくれる仲間も増え、今は25、26カ所の工場で常に工場見学ができるようになりました。観光面のメリットも大きかったですが、それ以上の効果が燕三条にもたらされました。
山田さんのお言葉の「足元の宝を見つめる」に全てが集約されますが、講演を拝聴し、私は四つの利点を感じました。
その1 知識の棚卸し
見学に来た人(素人)に分かりやすくしようと工夫を重ねたことで、平易な言葉で説明ができるようになり、知識の棚卸しとなった。
その2 奇麗になった
見学されることで工場が奇麗に整理整頓され、制服もできた。作業着のファッションショーも催されるほど話題に。見られるという意識が高まり、毎年2~3社が設備投資もするようにも。
その3 担い手が増えた
担い手が30~40人ほど燕三条に移住してきた。見学者の中には子供もいて、長い目で見たら情操教育につながる。
その4 インバウンドで稼ぐ
2014年以降はミラノ、スイス、ロンドン、シンガポール、台湾とプロモーションを展開。ロンドンでは、1時間のガイドツアーを開催し、職人が物づくりも実演。こうして外国人観光客の見学も増え、商品購入額は非常に大きい。現在は「工場の祭典」動画100本をYouTubeにアップ。旅行業の資格を取得し、22年から少人数ツアーも実施し、進化を遂げています。
地域一体となって取り組むことの大切さ、そして「観光」こそが「住んでよし、訪れてよし」につながり、地方創生が実現していくという見本のような山田さんのお話でした。
(温泉エッセイスト)