国際観光施設協会(鈴木裕会長)と日本旅館協会(針谷了会長)はこのほど、水光熱費の無駄の排除に着目した宿泊施設の生産性向上推進シンポジウムを東京都内で開催した。施設協会は、少ないエネルギーで施設を運営し、利益を上げながら自然と共生していく「エコ・小」活動を提唱。宿泊客1人当たりの水光熱費の目標数値を900円と設定して、取り組みの考え方や改善事例を紹介した。
旅館協会の2015年度の統計によると、宿泊客1人当たりの水光熱費は、大規模旅館(100室以上)が1259円、中規模旅館(31~99室)が1307円、小規模旅館(30室以下)が1346円。客室の規模に関係なく、1300円前後となっている。
施設協会では、全国約100施設を調査した結果、宿泊客1人当たりの水光熱使用量は、水道630リットル、電気30・4キロワット時、油4・8リットルなどだった。水光熱費900円の目標を達成するには、使用量を水道600リットル、電気22~25キロワット時、油2~3リットルなどに抑える必要がある。 温泉のある旅館は、水道、電気、重油などの使用量が多く、大浴場の運営などに改善の余地が大きいと施設協会は指摘する。温泉旅館の典型的な課題には、設備のシステム上の欠陥、設備の維持管理不足による効率悪化、不適切な使用による浪費などを挙げた。
施設協会エコ・小委員会の小川正晃副委員長は「無駄はあるという前提で取り組むべき。水光熱使用量を記録し、まずは見える化することが必要だ。従業員の意識も変わってくる」と説明した。
見える化では、施設協会が設備の面から参加した観光庁の16年度「宿泊業の生産性向上推進事業」の事例を紹介。ホテルグランメール山海荘(青森県鯵ケ沢市)では、水光熱の使用量をはじめ、外気温、浴槽温度、源泉温度などのデータを収集し、大型ディスプレイにグラフで表示することで削減に取り組んだ。
見える化に向けたデータ収集では、機械室などに配線を設置しなくても、館内Wi―Fi(無線LAN)が利用できれば、低予算、短期間のシステム構築も可能という。
削減の事例では、小規模温泉旅館の設備改修の成果を紹介。この旅館は日本海側に面した客室26室の温泉旅館で、露天風呂付きの大浴場(循環式浴槽)などを備える。水光熱費は改修前には1人当たり1956円だったが、改修後には992円に抑制できた。
同旅館で実施した主な改善策は、(1)温泉熱の利用(給湯予熱槽の設置で給水を加熱、外気温に応じて温泉補給量を調整)(2)浴槽循環ポンプのインバータ制御(3)冷暖房を中央式からヒートポンプ空調機による個別式に変更―など。設備改修だけでなく、設備担当者を選任し、使用量を記録して過剰な使用を抑制した「人の力」も削減に成功したポイントという。
施設協会の中山庚一郎相談役名誉会長は「水光熱の使用量では、温泉の運営に問題がある施設が多いが、宿泊客1人当たり900円の達成は難しいことではない。改善に取り組んで利益を生み出してほしい」と呼びかけた。同協会エコ・小委員会では、施設入りして水光熱使用の実態などを調査し、改善を提案する活動も展開している。