「まちやど」が地域活性化に果たす役割とは 日本まちやど協会 代表理事 宮崎晃吉氏に聞く

  • 2022年12月8日

宮崎氏

自分たちが暮らすまちの”日常”を発信

 まち全体を宿泊施設に見立てる「まちやど」。地域の飲食店や風呂屋、みやげもの屋などを巻き込んだ事業は、そのまちの魅力の発信を大きな特徴とする。一般社団法人日本まちやど協会の代表理事であり、自らもまちやど「hanare」を展開する宮崎晃吉氏に、まちやどと地域とのつながり、地域活性化に果たす役割などについて聞いた。

 ――コロナ禍で、まちやどを巡る状況にどのような変化がありましたか。

 日本まちやど協会は全国の「まちやど」を運営する事業者によって構成される団体で2017年に設立しました。現在、27のまちやどがあり会員として各地の事業者が登録しています。

 まちやどを巡る環境はコロナ禍で大きく変わりました。宿泊客が海外の方か国内の方か、どちらが多いかで異なりますが、コロナ禍で外国人旅行者は実質、来日することができなくなりましたから、いったんシェアハウスに用途を変えて運営するなど、それぞれの対応を図ってきました。一方で、移住の動きが進みました。こうした状況を経て、そもそも自分たちの取り組みが移住のきっかけになるということに改めて気付いたという面もあります。消費的な観光ではなく、地域が本来持つ姿を愛でるということが評価され始めており、むしろ時代が私たちの方に近づいてきていると皆さんが感じています。

 一方で、協会としては、ここ数年、活動が制限されました。会員それぞれも宿の運営が厳しくなる中、ジタバタしても仕方ない、こういう時期だからこそ腰を落ち着けてできることは何だろうと皆で話しました。単に「まちやどに来てください」ではなく、もっと本質的に地域と事業との関係とは何か、地域でどのような役割が求められているのか、それを私たち自身が探すためにも、何か学びが得られる活動がしたいと考えました。

 そこで新たな取り組みとして、年間誌「日常」を2021年5月に発刊しました。今年9月には第2号を発行しています。必ずしも宿に限らず、その地域に暮らしながら働いている人たちを取り上げて取材しています。また、大型書店やアマゾンなどでは販売せず、あえて地域の書店、まちやどのレセプションなど販売窓口を絞っています。

 ――まちやどという事業は、地域の活性化にどのように結び付くと考えていますか。

 地域活性化の捉え方は会員事業者によってさまざまだと思いますが、共通しているのは、会員もそこで暮らしているということ、その事業者が良いと思っていることに取り組み発信しているということです。

 各地のまちやどは観光と本格的な移住のちょうど中間の立ち位置にあるものが多い。しかも、多くのオーナーが地域の面白い人たちとつながっています。まちやどに泊まることで地域のことをよく知ることができ、面白い人と引き合わせてもくれます。望めば空き家の情報ももらえるでしょう。コロナ禍で「移住」がリアリティを帯びてきましたが、実際、ある地域でまちやど事業を始めたところ移住者が増え、その地域から空き家がなくなったという例もあります。もちろん立地などの条件もあるでしょうが、まちやどが一定の役割を担っていることは間違いないと思います。

 まちやどの面白いところは、寝る場所は提供するが、それ以外の要素はできるだけまちに委ね、「日常」を知ってもらうことを大事にしている点です。ですから消費をあおるだけの観光ではなく等身大のその場所を体験できる、それこそが価値だと思っています。この体験の提供が、「実際に暮らしてみたい」と移住につながり、「住むことはできないが通いたい」と関係人口化することにつながりやすいのだと思います。

 ――宮崎さんは、まちやどだけでなく、地域とのつながりの中で、さまざまな事業を展開してきたように思います。

 私は、まちやどの「hanare」を展開する以前から、谷中(東京都台東区)の地で10年ほど事業を行ってきました。地域に根差すのには時間が必要で、この10年でいろいろなつながりができました。例えば、地元出身の人が働いてくれるようになり、この人たちを通じて親世代ともつながることができました。町会との関係も深くなるなど、単に事業者というだけではない関係性が深まっています。このつながりから空き物件の紹介など事業の可能性も開けています。

 こうした中、新たな取り組みとして、昨年、WEBメディア「まちまち眼鏡」を立ち上げました。単にお店情報をアップするのではなく、地域で暮らす人がどのような目線でまちを見ているのかを紹介するローカルメディアです。記事を書いているのは、地域で暮らし、働く方々です。

 モノがなかった戦後、自分たちのモノではないより良いモノが外にあるはずだと、それを手に入れることに躍起になった、それが成長期時代だったと思います。今、むしろモノが余る時代にあって、ゼロからモノを作るというより、今持つモノをどう肯定していくか、そこに未来があるような気がしています。一般的には取るに足らないと思われているモノでも、今、ここにあるモノから何かを生み出す方が大事なのではないでしょうか。例えば空き家の木造アパート、ちょっとした路地など、それこそ日常そのものですが、そこに価値を見いだす、そこが面白いと思っています。ただ、こうしたなけなしのモノですら放っておくとどんどん壊され、この場所でなくてもよいモノに置き換わってしまい、つまらないまちとなってしまいます。モノやまちだけが暮らしを作っているわけではありませんが、やはりそれらが暮らしの源泉になっていると思います。

 ですから、いろいろな取り組みの先に大きな金脈が埋まっていると考えているわけでも、期待しているわけでもありません。それよりも自分たちが精神的に豊かでいられることが重要だと考えています。

 ――今後のまちやど展開の展望、また、可能性は。

 まちやどは多くの可能性があり、今後も広がっていくと思います。「まちやど」の概念は、それほど新しいものではありません。そもそも日本のツーリズムは、街道があり、宿場町が連続していて、宿場町ごとに旅籠があり、飯屋があり、風呂屋があった。いろいろなお店が宿場町を形成し、一つとして同じものがなかった。それが、いつしか忘れ去られ、観光地かそうでないかという程度の違いになってしまいました。

 暮らしや日常を愛でるという視点からは、特に観光地である必要はありません。そこで暮らす人たちが大切にする日常、それがまちの魅力、まちやどの魅力になっていく。ですから、地域への愛着があれば、まちやどはどこででもできるのです。

 まちやどは一つとして同じものはない。それは人が掛け合わさっているからです。そこが面白いところ。ある意味、江戸時代の頃の日本のツーリズムのあり方に立ち返っていくような動きだと思います。かつて街道沿いに宿場町が点々としていたのと同じようなものができ、ホッピングするツーリズムが生まれるのではないかと思っています。人気の観光地にみんなが殺到するような形ではなく、もう少し緩やかなものです。

 自分たちの日常を見直す、コロナ禍はそういう機会だったと思います。否が応でも自分たちの暮らしに向き合わざるを得なかった。この目線を持っていると、この土地の日常はこうで、自分たちの日常とここが違うなとか、逆に自分たちの日常が新鮮に見えるようにもなる。本来、旅の意味はそういうところにあると思います。

宮崎氏

 
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