【道標 経営のヒント116】ほんとうの需要で変わる旅館 佐々山茂


 旅館は時代の需要に応じて変化してきた。鎌倉時代の木賃宿から旅籠へと変化し、江戸時代には今の温泉旅館の原型が生まれた。その後、駅前旅館から戦後に団体観光旅館が発展し今に至る。テロ問題、北朝鮮問題があっても世界各国でインバウンド、アウトバウンドは増え、今や観光産業は世界の基幹産業の地位を得ている。旅館にとっては絶好の機会なのだがどうも元気がない。

 宿泊産業は生産性が低いと言われているが、その要因として適正価格で売れないことが大きい。ルームチャージ1万円、朝晩2食で1万円、温泉が2千円とすれば2万円は超える。ビジネスは安い方がよいが、リゾートは安さよりも良い時を過ごすことが目的だが、過当競争があり適正価格で売れない。適正価格とはお客が満足し、働く側も適正な給与があり、再投資ができることである。

 旅館は元来立地の良い場所にある。交通の要所であったり、海や山の絶景があり、質の良い温泉が豊富であったりと一つとして同じものがない。それが規模を拡大し、他と競合し、効率が重視される中で「旅館」らしくまとまり、特徴が失われた。もう一度お客さまが何を求めているのか、ほんとうの需要につながることを見つけたい。書いてしまえば何のことはないが、(1)一番良い景色を美しく見せる(2)良い温泉を良い状態で提供する(3)良い食材を作り立てで提供する(4)笑顔でお迎えする。

 設計をするときはそのエリアの歴史、文化を調べ、昔の話を聞く。今設計している旅館は目の前が漁港で昔は釣り宿であり、今でも仕立て船と親しい。生簀もあり料理も旨い。それならもっと海に親しむ宿にすれば良いと思う。

 昔から交通の要所で人数は少ないが昼間でも人通りが絶えない。宿の西側にある景色の良い場所をお客さまがくつろげる場所にする。同時に街行く人とコミュニティーが成り立たないかと思っている。海に開けた特徴を磨けば過当競争にならない。

 最近お会いしたおかみさんと話すと口々に口コミで苦い思いをしたと聞く。口コミばかり気にしていると気が滅入るし視野が狭くなる。重箱の隅をつつくような口コミの向こうにある本当の需要を取りこみたい。

 今、宿泊施設は百花繚乱の状態でさまざまに変化している。本来持っている特徴を認めて磨きをかけて他と比べようがない旅館にすることで、適正価格で売る。適正価格で売れる旅館が増えなければ観光産業としての旅館の未来はない。「この絶景は他では見られませんよ」と明るく自信を持って言える宿にしたい。

 
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