【私の視点 観光羅針盤 126】ESG投資への期待 石森秀三


 今年を振り返ると、日本を代表する一流企業による不祥事に関する報道が相次ぎ、日本企業の信用力に疑問符が付けられた。

 その流れは2015年から始まっており、東芝、東洋ゴム、旭化成、三菱自動車、東亜建設、スズキなどで不正が発覚し、今年に入ってから日産自動車、神戸製鋼所、スバル、三菱マテリアルなどでも不祥事が相次いだ。10月末の英紙フィナンシャル・タイムズでは「神戸製鋼が露わにした日本の破滅事態」という記事が掲載された。

 日本企業の信用力が崩壊しつつある中で、日本でもようやくESG投資が注目されるようになってきた。ESG投資とは、E(環境)・S(社会)・G(企業統治)を重視して投資する手法のこと。

 08年のリーマン・ショック後に目先の利益ばかりを追い求めることへの反省から、環境や社会問題、企業統治を重視する企業への投資によって長期的運用益を目指す方向への転換が図られるようになった。

 特に、公的年金基金などの投資家が環境や貧困問題の解決、公平・公正な社会づくりなどに配慮しつつ持続的成長を目指す企業への投資を重視するようになっている。

 16年の世界のESG投資額は22兆8900億ドル(約2470兆円)に達しており、その9割以上を欧米の投資家が占めている。日本のESG投資額は3%強に過ぎなかったが、世界最大の年金資産(約157兆円)を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESG投資を始めたことで大きな変化が生じている。

 ESG投資は、環境や貧困、性による差別など17分野の課題解決を目指す国連の「持続可能な開発目標(SDGs)の達成」にもつながっている。

 世界のティーカンパニーを目指している伊藤園は早くからESGに配慮した経営に注力している。

 具体的には茶産地育成事業によって環境保全型農業振興・雇用促進を図るとともに、茶殻リサイクルシステム確立で持続可能な資源利用に貢献し、健康に資する商品の開発を心掛け、「お茶で日本を美しく。」キャンペーンによって地域の文化保存・環境保全・生物多様性の保全などに資する経営を行っている。

 環境、消費者、コミュニティー課題の3分野に経営資源を重点配分し、社会課題解決と経済価値の同時実現に向けて、事業を通じた「共有価値の創造(CSV=Creating Shared Value)」を実践している。

 北海道でも「お茶で北海道を美しく。」キャンペーンによる収益の一部を北海道遺産協議会に寄附することによって北海道遺産の環境保全に貢献している。今後は観光関連企業もESGに配慮した経営に力を入れることによって、日本観光の基盤強化に貢献することが期待されている。

 (北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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