【私の視点 観光羅針盤89】旅行業と宿泊業の今後の関係 安田彰


 小ぢんまりとしたいい旅館――誰もが泊まってみたい宿のイメージだろう。女将の目の行き届く35室くらいの温泉地の老舗割烹旅館、季節感あふれる料理と品のいい調度やしつらい。多くの旅館が苦戦するなか、こうした名旅館は常連客で埋まり、口コミ効果で予約が取れない。決して安くはないのに大変な人気だ。

 その一方で、多くの旅館は苦戦を強いられている。余剰の客室を抱え、販売の妙手を見つけられないまま、価格競争に走っているからだ。大型旅館は自前の販売手法を持たなかったため、高度成長期を含め長い間、客室販売の多くを旅行業界に依存してきた。団体旅行中心の時代はそれが効率の良いやり方であった。

 しかし、経済環境も旅行形態もすっかり変わった。客室にしても定員通り埋まることはまずなく、2人1室が常態である。

 大手旅行業者は各社ごとに独自のコンピューターシステムを持っていて、あらかじめ旅館の客室を預かる「在庫」方式をとっている。おまけに売れ残った在庫は直前になって「手仕舞」ということで返室される。

 一般に、客室の消化率は週末や繁忙期を除くと平日は極めて低い。旅行業界が売ってくれるのは繁忙期か週末ばかりで、各社のブランドを冠した企画商品を造っても平日はなかなか売れない。宿泊業界にとっては売りたいときに空室がなく、平日は間際になって返室されるのでは泣くに泣けない。

 部屋数の限られる小規模名旅館はどうか。大手旅行業数社に対し、例えば5室程度預けるとすると自前で売れる数はごくわずかだ。できれば在庫提供は勘弁してもらいたいが、先代からの付き合いもあって断り切れない。大型旅館とは対照的な悩みだ。そんな業界にとってインターネットの出現は画期的な「産業革命」であった。おまけにその使い勝手は日進月歩だ。

 大手旅行会社への個別在庫提供より、自社システムとの連結による「発生ベース」の一元予約方式のほうがずっと効率がいい。かくして宿泊予約の方式は今や主客の入れ替わる大転換期を迎えている。

 旅行業界にとっては、鉄道や航空の販売手数料が切り下げられるなか、宿泊産業だけが頼みの綱だ。しかしその綱が揺るぎ始めている。企画商品パンフレットの作成、集中送客といった従来型の個別販促手法は通用しなくなっている。支払い手数料と集客実績とのバランスをみてソロバン勘定をする旅館も増えてきた。在庫ではなく発生ベースでのお付き合いとなると、旅行業者は今後どう生き延びていくのであろうか?

 (亜細亜大学教授)

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