【寄稿】企業再生の「縁」と「運」 渡辺清一朗(EHS研究所代表)


 再生に成功する経営者に共通すること。それは、現状に甘んじることなく1歩前に踏み出す勇気を持っているということ。1歩踏み出し、惜しみない努力を続けているとそこには思いもよらなかった「縁」と「運」が生じる。縁に導かれ出会った人が運を運んでくる。

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 「うちのお母さんが旅館をやってるんやけど、最近もう限界ってよく言うのよね。私はそんな情態の旅館を継ぐわけにもいかず、こうやってスナックをやってるんです」―私の友人がよく行くお店。

 「そうなんだ。役に立つかどうかは分からないけど、これでも経営者のはしくれ、私が一度話を聞いてもいいよ」―とまあ、こんな流れで友人が経営相談に乗った。

 有名温泉地の由緒ある小規模旅館。先代から経営を引き継いだ女将も老齢の域に達していた。近年の設備投資もままならず施設は古く単価も低い。また、その温泉地自体も新陳代謝が遅れ老朽化した施設や取り壊されて空き地となったものも散見されるようになっていた。元金返済がままならないばかりか金利も滞り始め、個人の蓄えもすべてを資金繰りに投入。必死のやりくりで何とか営業を続けていた。

 金融機関はこの現状を本当に分かっているのか疑わしく、女将と友人を伴い金融機関を訪問した。数度の打ち合わせの甲斐あって、支店のみならず本部が関与することとなり、再生に向けた交渉が進み始めた。

 債務者にとってまことに虫のいい条件を提示しながら落としどころを探っている。債権者と債務者が顔を突き合わせたのでは債権者の言いなりとなる可能性が高い。しかし債権者は引き金を引くことは少なく、放置された状態に出くわすこともしばしばだ。地方経済を憂う友人や再生を生業とする者などの第三者の関与が功を奏しつつある事例だ。

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 「友人が経営するホテルのことだけど、金融機関紹介のコンサルタントが関与している割になんだか進んでいる方向がよくないような気がする。1回会ってもらってもいいだろうか」―ということで風光明媚な海岸沿いに建つホテルを訪ねることとなった。

 2年ほど前にその地域の再生支援協議会が関与し、都合3年間の暫定的なリ・スケジュールを開始した。金融機関紹介のコンサルタントも有償で関与している。

 しかし、ネット販売の強化や経費の適正化などの当たり前の指導がなされた形跡はなく、数字上の予算と実績を検証する会議がなされてきただけのようであった。しかし、その一方で着々とM&A(企業の合併・買収)に向けた準備が進められ受け皿候補会社が訪問したりしている。最初からM&Aありきで経営改善は形ばかりとしか思えないものだった。償却前営業利益を2桁近く出しているにも関わらずである。

 早速、社長と一緒に再生支援協議会と金融機関を訪問。「外科治療(M&Aや不動産売却などによるB/Sの改善)に取り掛かる前に内科治療(P/Lの改善)を徹底的にやりましょうよ」との申し入れを行った。収益改善で成果をあげられないのに、同じコンサルタントにM&Aの仲介を依頼しているということなど聞いたことがない。予断を許さないが、良い方向に軌道修正されることを願っている。

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 中小企業の再生では債権者と債務者以外に経営コンサルタントや再生支援協議会などがよく登場する。しかしそのありようは一様ではない。

 事業の継続と雇用の確保を真から願い勇気をもって行動する経営者とそうでない者。本気で地域の発展を願う社員を有する金融機関と自分のことしか考えていない社員が目につく金融機関。プライドばかりが高く使えない者で構成される再生支援協議会と再生実績豊富で話が分かる人たちがいる協議会。

 債権者か債務者のどちら側に立っているのか分からないばかりか、フィーを支払う債務者を不安に陥れるコンサルタントと債務者との信頼関係を構築し徹底的に戦うコンサルタント。良縁が良運を運んでくる。

 
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