【シニアマイスター経営の知恵 45】顧客の開拓が意味するもの 碓井将夫


 新聞の経済面を読むと、新規顧客の開拓や販路の開発、営業戦略の見直しなどの言葉が毎日のように躍っている。そのほとんどが、既存マーケットにおけるシェアの拡充・奪取のための手法である。

 確かに、組織は限られたマーケットの中でパイを奪い、規模を拡大しコストパフォーマンスの効率性を追求することは、事業経営上必要だが、そこには自ずと限界があることを再認識しなければならない。つまりマーケットの規模以上に事業の発展は見込めない。ここで、本来の意味での新しい顧客の獲得が必要になる。それでは、新しい顧客とは誰なのか。再定義が必要だ。それは自分たちの主戦場以外の顧客のことだ。

 そこで、ピーター・ドラッカーは経営学の古典「現代の経営」で「組織の目的は、顧客の創造にある」と言っている。また、「組織には、二つの基本的機能があるとしている。一つは、マーケティングであり、もう一つは、イノベーションである」としている。つまり、マーケティングとは、顧客が何を求めているのかを、顧客に寄り添い、顧客を観察し、顧客自身が知覚さえしていないニーズを顕在化させることだ。

 また、イノベーションにおいては、その機会を発見し、新しい製品やサービスを提供することである。

 この二つの基本的機能の中で、特に新しい顧客を発見する手掛かりを得るための機能がイノベーションだ。それは、その機会を、どこで、どのように見いだすべきかを明らかにする。

 ドラッカーは、イノベーションのために七つの機会を示している。最初の四つは、組織や組織の属する産業内部の現象や事実である。まず、第一に「予期せぬことの発生」。予期せぬ成功、予期せぬ失敗、予期せぬ事態である。第二に「ギャップの存在」。実際の状況と本来あるべき姿の違いである。第三に「ニーズの存在」。第四に「産業構造の遷移」。残り三つは、組織や産業外部における現象や事実である。第五が「人口構造の変化」。第六が「認識の変化」。つまりものの捉え方、感じ方、考え方の変化だ。第七に「新しい知識の出現」。新しい理論や技術である。

 これら七つのイノベーションの機会は、画然と分かれているわけでなく互いに重複している。一つの立方体を違う角度から眺めていることと同様である。しかし、角度によって見方や意味が異なる。七つの機会がそれぞれ異なる性質をもち、異なるアプローチを必要とする。

 ここで、以上七つのイノベーションの機会を体系的に捉えていくために、日常の事業活動の中にそのプロセスを組み込む必要がある。これこそが、新しい顧客、そこから生まれる事業を発見する最も確実な手段だ。

 そのプロセスとは、具体的には、日常定期的に行われているマネジメントレビュー会議において運営上の課題解決のみならず、別途、議題項目を設け運営期間中に起こった予期せぬ成功、予期せぬ失敗のような不測のものについて、つまりイノベーションの機会を検出し分析を行うことである。

 新しい顧客の開拓とは、本来、マーケットのシェアを奪取することではなく、顧客を創造することのみならず、新しいマーケットの発見を日常業務に組み込み事業機会を不断に獲得していくことにつきる。

 (NPO・シニアマイスターネットワーク会員 中内学園・流通科学大学人間社会学部教授、碓井将夫)

 
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