トリップドットコムの世界戦略 Trip.com 国際市場マネージングディレクター兼副社長 ブーン・シアン・チャイ氏に聞く


Trip.com Mr.Boon Sian Chai,Marketing Director and Vice President International Markets

トリップドットコムの世界戦略

最重要の国際市場は日本 中国人旅行者のデータに強み

 ――トリップドットコム(Trip.com)グループのグローバル戦略について伺いたい。現在の世界市場の動向をどのように捉えているか。

 私たちは、地域に焦点を当て、グローバルなビジョンを持って事業を運営している。中国国内のユーザーのために、グローバルな存在感を構築することに引き続き注力していく。もちろん、日本など中国以外のユーザーベースの拡大にも注力している。豊富なノウハウと旅行業界におけるパートナーシップ、ネットワークを活用することで、中国での成功を世界規模でも実現したい。

 具体的な戦略は、(1)ワンストップの旅行サービスの拡大(2)コンテンツ機能のアップグレード(3)カスタマーサービスの質のさらなる向上(4)テクノロジーへの投資の継続(5)グローバル経営陣のリーダーシップの強化―だ。

 世界市場の動向については、当社独自データの分析からも、旅行の未来をけん引するいくつかのトレンドが見受けられる。

 例えば「一人旅」と「ローカル体験」。コロナ禍中における近距離旅行の人気により、中国では10月初旬の国慶節の休暇中に、レンタカーやキャンプ、グランピング市場の人気に拍車がかかった。トリップドットコムが主催するオンラインおよびオフラインイベントの結果からも、日本を訪れたいと考えている中国人観光客は、東京や大阪から離れた自然やアウトドア・アクティビティに関心があることが分かっている。

 当社データから導き出した具体的なトレンドをご紹介したい。

 まず第1は、「トラベルテックの採用の加速」。新型コロナ禍の影響で、企業は顧客とサプライチェーンのやり取り、および社内業務のデジタル化を3~4年分加速させた。ホテル、航空会社、旅行予約サイト、その他の観光スポットは、かつてないほどチャットボットを使用している。ホテルはより多くのゲストサービスをオンラインに移行し、ロボットを活用している。一部のホテルが直面している労働力不足を考えると、これは日本にとっても重要だ。

 これら全ての新しいテクノロジーで企業もスマートフォンを活用し続けている。統計によると、スマートフォンでツアーやアクティビティを予約する旅行者は、PCやカスタマーサポートセンターなどから予約する旅行者よりも50%多い金額を支出している。当社のオールインワン・プラットフォーム・サービスでは、モバイルエクスペリエンスを提供。総取引の90%以上をモバイルチャネル(スマートフォン)と24時間年中無休のネイティブスピーカーによるカスタマーサポートセンターを通じて行っている。

 第2は、「ビジネス旅行とレジャー旅行の融合」。パンデミックが始まって以来、場所に依存せず、移動してリモートで作業するという概念は一般的になった。トリップドットコム・グループの企業旅行のデータによると、国境の再開により、出張の回復が加速している。2022年上半期には、国際線の法人旅行予約が前年同期比で3倍、国際ホテル予約が同4倍に増加した。

 第3は、「持続可能な旅行(サステナブルトラベル)」。当グループの持続可能な旅行消費者レポートによると、旅行者の10人中8人が持続可能な旅行の重要性を認識しており、旅行者の67・7%は持続可能な選択肢にもっとお金を払うことに前向きだ。

 当グループは、この高まる需要に対応するための措置を講じている。中国ではグループのサブブランドであるシートリップ(Ctrip)がサプライヤーと協力して廃棄物ゼロのキャンプやエコハイキングなど、さまざまな環境に優しい旅行商品を提供している。

 また、今年4月22日のアースデイに合わせて、旅行者が「サステナブル・フライト」ラベルの付いたフライトを選んで航空券を購入できるサステナブル・フライト・キャンペーンを導入した。「カーボン・オフセット率」を含む特別運賃の切符だ。ヨーロッパでは英国、ドイツ、フランス、イタリアを皮切りに、アジア太平洋地域では日本、韓国、シンガポールから始めた。

 ――トリップドットコム・グループのポストコロナ戦略は。

 1点目は、「中国国内市場の顧客およびホテルパートナーへの価値提案の強化」。

 24万軒のホテルが、会員3千万人を擁するメンバーシッププログラム「トリッププラス(TripPlus)」に参加し、常連客に特別な特典を提供している。参加ホテルの65%が高級ホテルだ。より優れた費用対効果を求める顧客の要求に応えながら、パートナー(ホテル)が、段階的なメリットを生み出すのを支援していく。

 2点目は、「国際市場でのローカリゼーションの強化によるより多くの旅行需要の獲得」。地方自治体およびサプライヤーの皆さまと緊密にサプライチェーンを強化し、国際ブランドとしての認知度向上を図っていく。2022年のトリップドットコムのアプリダウンロード数は過去最高を記録した。これは認知度向上の結果といえる。当四半期では、グループのプラットフォームでのグローバルな目的地内アクティビティの予約が連続して24%増加し、22年上半期には前年比3桁成長を維持した。

 3点目は、「若年層向けコンテンツの拡充」。若い世代の需要に応えるため、トリップドットコム・グループはライブストリーミングと情報フィードを使用してユーザーに情報を提供している。また、ユーザーが十分な情報にもとづいた意思決定を行えるように、顧客からのフィードバックに基づいて「最も人気のある(死ぬまで一度は訪れたい)旅行先リスト」を作成した。これによりコンバージョン(成約転換率)も向上した。

 1日平均のUGC(ユーザーが生成したコンテンツ)の量は、第2半期に前年比16%増加し、協力してくれるKOL(キーオピニオンリーダー)とインフルエンサーの数も第1四半期で17%増加した。ユーザー1人あたりの平均コンテンツ視聴数も前四半期比で50%増加した。

 ――中国本土や他のアジア諸国から日本へのインバウンド旅行者をどのように予測しているか。

 最新の社内データによると、9月の中国本土から日本へのフライト予約は前月比で8倍に、韓国から日本へは同3倍に増加した。トリップドットコムでは今年5月以降、中国本土およびAPAC全体で一貫して高い検索数を記録しており、9月には主要な旅行目的地の検索数が急増した。

 中国人旅行者は通常、百度(Baidu)などの検索エンジンか各種の旅行プラットフォームで旅行手配のための検索を行う。トリップドットコムは、シートリップ(Ctrip)から社名変更して今年で5周年になるが、中国国内向けの旅行プラットフォーム名として「シートリップ」を継続使用している。そのシートリップでは、9月の中国からの日本旅行の検索数が前月比の9倍となった。日本への旅行に関する検索数が次に多かったのはシンガポールからで同6倍。同様にタイからは5倍、オーストラリアと韓国からは4倍だった。

 10月11日に日本政府が実施した入国制限の緩和と円安のダブル効果で、日本へのインバウンドは急速に拡大、回復へと向かいつつある。

 ――日本で、トリップドットコム(Trip.com)を、エクスペディア(Expedia)、ブッキングドットコム(Booking.com)、アゴダ(Agoda)といった他のグローバルOTAと差別化する具体的な戦略はあるのか。

 トリップドットコム・グループの強みを挙げると、「急成長中で世界的プレゼンスを持つ、中国1位の旅行プラットフォーム」「さまざまな旅行商品をワンストップで包括的に提供」「旅行全体にわたるカスタマー中心主義」「事業全体を支える独自のテクノロジー」「旅行パートナー(取引先)に力を与えるエコシステム」「豊富な業界経験と起業家文化を持つ経営陣」となる。
 
 最大のユーザー年齢層は16~30歳と31~45歳。品質を重視する、購買力の高い若い消費者が顧客基盤となっている。旅行者は、フライト、ホテル、列車など全ての旅行手配を、ユーザーフレンドリーなウェブサイトとアプリで、ワンストップで完了できる。当社のオールインワン旅行プラットフォームは、世界的なモバイルトレンドの最前線で数々受賞歴がある。シームレスで直感的なモバイルエクスペリエンスを提供することで、幅広い旅行者のニーズに対応している。

 当社のカスタマーセンターは24時間年中無休で、英語、広東語、日本語、韓国語のネイティブスピーカーがサポート対応する。39の国と地域で、48サイトを25言語で展開。29種類の現地通貨に対応している。

 私たちが持つ中国人旅行客とその好みに関するデータと分析結果は、他のグローバルOTAには提供できないはずだ。そこが一番の強みだろう。

 ――トリップドットコムは、グローバル戦略またはアジア戦略の中で日本をどのように位置付けているのか。

 日本は私たちの最も重要な市場の一つだ。今後も多くのリソースと人材を投入する。訪日中国人旅行客は今後も増え続けるだろう。その需要に応えたいと考えている。日本人の国内旅行、海外旅行にも当社のビジネスチャンスがまだある。日本市場は今後も拡大するという認識のもと、ブランディングを取り入れた統合マーケティングを展開する。

 マーケティングチームのメンバーは世界中に数百人おり、中国市場チームとグローバル市場チームの大きく二つに分かれている。後者は、本社に約50人、現地拠点の現地マーケティングチームに約40人が在籍しており、人数規模は日本が最大だ。現在、アジア太平洋地域(APAC)を中心に9カ国にチームがある。最近では、オーストラリア、ロシア、イギリスでも活動を開始した。

 グローバル市場への投資を今後も増やし、トリップドットコムのブランディングを強化していく予定だ。

 ――日本の旅行市場をどのように予測しているのか。日本からのアウトバウンド戦略は。

 出入国在留管理庁(旧入国管理局)の速報値によると、2022年7月の日本人海外旅行者数は前年比の6倍に増加している。遠方への旅行を3年近く制限され、日本人には旅行再開への欲求がたまっている。当社ではビッグデータを活用し、ユーザーニーズに合わせたターゲティングによる情報提供を行っていく。例えば、リピーター向け旅行先と初心者向けの旅行先を分けて各日本人旅行者におすすめの海外旅行先として紹介するなどしていく。

 ――10月11日から日本への入国制限が大幅に緩和された。日本への旅行予約はどの程度増えているか。

 本日(インタビュー実施日・10月20日)手元にあるデータはそれ以前のものになるが、韓国から日本への旅行予約は9月が前月比の3倍、英国からは同3倍、スペインからとドイツからは共に同2倍だ。5月以降、ヨーロッパ、アジア太平洋、米国全体で日本への検索数は一貫して高く、特に9月は急増した。

 ――中国はゼロコロナ政策を継続しているが、日本のインバウンド市場の回復は、中国本土からのインバウンドの回復にかかっている。見通しはどうか。

 政府の政策についてコメントすることは、私たちの仕事の範囲を超えている。トリップドットコム・グループが言えることは、中国人旅行者の日本への関心は依然として強く、アジア各国、ヨーロッパ諸国、米国でも日本への旅行の関心は強いということだ。

 新型コロナウイルスの感染拡大による旅行の変化には、誰もが適応しなければならないわけだが、トリップドットコムは海外からの訪日観光客の見通しに自信を持っている。日本のパートナー(取引先)や地方自治体と協力して、増加が予測される観光客の受け入れに対応していく。日本人の国内旅行・海外旅行にも明るい見通しを持っている。

 私たちのテクノロジーと旅行プラットフォームは、コロナ禍で旅行を我慢していたユーザーの期待に応え、利便性を提供できるものと確信している。

Trip.com
Mr.Boon Sian Chai,Marketing Director and Vice President International Markets

【聞き手=江口英一】

 
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