
自館の特長を話す田辺社長
JTB商事(東京都文京区、小川幸作社長)は8月25、26日の2日間、旅館・ホテルの経営者、管理者を対象に「旅館ホテル経営セミナー」を飛騨高山温泉の田邊旅館(田辺信義社長)で開いた。募集定員一杯の20人が参加した。
初日は基調講演と2コマの専門講座を実施。2日目にJTB商事が設計、施工を手がけ、5月20日にリニューアルオープンした同旅館の概要説明と施設見学会を行った。
田邊旅館は1934年の創業。訪日外国人旅行客比率が30%を超えている。リニューアル前の規模は全15室で年商は約1億円だった。
7年前に約1億円の借金をして隣接地を手に入れた。駐車場として使用していたが、収益性が低く、借入金が経営の負担となってきたため、JTB商事に相談して増築とリニューアルを決意した。新館の建設と本館のリニューアルに要した総投資額は約2.6億円。全額を地元の金融機関からの借り入れで調達した。地域一体の地元金融機関とつきあった方が後々の面倒見もいいし、宴会や宿泊客なども紹介してくれるからというのがその理由だ。
新築した新館は3階建、全11室。本館は15室を11室に減らし、現在は全22室となっている。
「家業としての宿屋」という姿勢を頑なに守り続ける田辺社長は、客室規模が増えても、食事は部屋出しにこだわっている。部屋食は「ルームサービス」を意味するため、外国人客に特に好評という。
宿泊客の30%は訪日外国人旅行客。特にフランス人、スペイン人、イタリア人、英国人などの欧州人が多い。
8年程前から高山市全体がインバウンド客誘致に力を入れ始めたが、日本政府観光局(JNTO)を通じて欧米メディアの取材を積極的に受け入れたところ、スイス、スウェーデン、米サンフランシスコなどの各国メディアが殺到。毎年6〜7本の取材を受けるようになり、特に欧州で田邊旅館の知名度が一気に上がった。仏の旅行ガイドブック「ミシュラン」でも紹介されている。
現在の宿泊予約の内訳は、インバウンド客が30%、楽天トラベル、じゃらんネットなどの宿泊サイトと自社サイトのインターネット経由が30%、JTB経由の日本人客が14%、残りが地元客となっている。またインバウンド客の予約経路は、JTBグローバルマーケティング&トラベル、自社サイトと海外の旅行予約サイト、海外の旅行会社からの申し込みの順で、電子メールでの申し込みは「問い合わせは多いが成約率は10%程度」(田辺社長)だという。
25日の基調講演「原点回帰〜身のほど経営に徹すべし」を行ったホテル旅館経営財務コンサルタントの松井洋治氏は「メーカーや町工場の経営者と話す機会があるが、技術革新があれば一夜にして価値がゼロになる製品を生産している彼らにしてみれば、絶対に無くならない衣食住にかかわる商売はうらやましくて仕方がない。宿泊産業は恵まれた業種だ」と話した。さらに「湯量や泉質など“所与のアメニティ”に過度に依存している不勉強な旅館経営者は負け組になる。本業以外には目もくれず、自館の原点、つまり『家業』に立ち返り、身のほど経営に徹することが今の時代に必要だ」と強調した。
またJTB商事企画設計室の小輪瀬博子コンサルタントは「FBコントロールの需要性」について解説した。「販売価格は経営者が『政策』として決めるもの。板場には指示した予算の範囲内でやりくりするように徹底しなければならない」とした。「原価管理を徹底しても、板場のやる気や創意工夫をうまく引き出すことで利益率と顧客満足度を上げることは可能だ」と話した。
初日最終講座では、山下ピー・エム・コンサルタンツの関根雄二郎専務が「建物の建築保全に対する支出抑制の有効な手法」を専門的に講義した。「建物は建ったその瞬間から老朽化が始まるが、不具合が出てから修繕を行う場当たり的な『事後保全』よりも、計画的に行う『予防保全』の方が、累積修繕費が安くあがる。施設寿命が10年程度延びる場合もある」と説明。定期的なメンテナンスによるバリューアップや長寿命化が、結果的に収益力の向上につながるとした。
省エネについても指南。「初期投資無料で施設の省エネ診断と省エネ設備導入の相談にのってくれるESCO(Energy Service Company)事業者や、公的機関が出している各種補助金制度を上手に使えば宿の光熱費を大幅に削減することが可能」と紹介した。

自館の特長を話す田辺社長