東日本大震災後の自粛ムードと福島第1原子力発電所の事故の影響で、旅行需要が冷え込んでいる。しかし、震災後1カ月を過ぎ、「過剰な自粛はかえって復興の妨げになるのでは」という声も出始めている。多くの人が動くゴールデンウイーク(GW)。国内旅行が落ち込むことは織り込み済みとはいえ、やはり動きが気になる。旅行業者、温泉・観光地の感触を探った。
JTBによると、8日現在の国内パッケージツアーの予約状況は前年の8割弱に落ち込んでいる。「4月に入っての間際申し込みが多い。震災の影響を受けているが、一部は戻っている」とし、特に西エリアは比較的堅調と言う。
近畿日本ツーリスト(KNT)の首都圏発メイトの4〜6月の予約状況は前年の7〜8割にとどまる。関西発については九州方面、沖縄方面商品ともに、3月末時点で前年比2割増。「直接の被災地でない上、これまでの自粛ムードから、『動くことで復興支援をしよう』という考え方に変わってきている」と関西広報。九州新幹線の全線開業や東日本への“代替地”としての西日本需要も伸びにつながっていると見る。
日本旅行の国内企画商品「赤い風船」の3月末時点の受注状況(4月26日〜5月6日出発分、人員ベース)は全方面計で前年同期比約2割減。好調な方面は九州で、約1割の増加。京阪神方面は約1割減にとどめており、相対的に健闘していると見ている。「全体的に西高東低の傾向だ」。
阪急交通社の予約状況は、1日現在で、前年同期と比べ5割減という状況だ。東北・関東は8割減と落ち込みが激しい。「東はかなり悪く、GW中の回復は難しい。東京での募集は、当初は社会全体が自粛ムードの中にあり、(募集を)控えていたが、近く新聞掲載を再開する予定だ」(広報課)。その他方面を見ると、中国地方は前年並みを維持。北海道は4割減、近畿1割減、九州5割減。今後は「北海道や西日本方面を中心に力を入れる」としている。
トップツアーは東日本で苦戦しているものの、西日本発熊本、鹿児島方面ツアーが前年比3割増と好調。
ANAセールスは例年、商品を発売する2月から続々とGW期間の予約が入るが、震災の影響でキャンセルが続出。関西発商品も前年を超えるほどにはなっていない。
ジャルツアーズとジャルパックの2社が統合した新生ジャルパック。GW期間中の予約は東京ディズニーリゾート休園やJALの路線減少の影響で例年の6割程度にとどまっている。
はとバスは「6日時点での予約は昨年同期と比べて35%ほどしか入っていない」(広報課)と頭を抱える。東日本の商品が多いだけに、震災の影響をもろに受けている。「GWの動きで夏の状況もある程度見えてくる」としているだけに、先行き不安を隠さない。明るい材料は東京の桜の名所を巡るバスツアーが盛況なことだ。「問い合わせが多く、11日から臨時便を出している」とこの時ばかりはトーンが上がった。
温泉・観光地
宿泊予約は厳しい状況 間際の需要増に期待
GWの宿泊予約の状況は、震災の影響や旅行自粛のムードを受けて全国的に厳しい。ただ、過度な自粛は被災地の復興、日本経済にマイナスという認識も広がりつつある。温泉地や観光地の関係者は自粛ムードの払しょくと、間際に向けた動きに期待をかけている。(各地の状況は11、12日時点の取材に基づく)
■東日本
男鹿温泉郷(秋田県男鹿市)は、予約の状況は総じて厳しいという。GWは例年、東北域内、特に仙台周辺からの観光客が多いためだ。「新幹線を含む列車の運休、運転本数の縮小の影響は大きい」と同温泉郷協同組合。
湯の川温泉(北海道函館市)も、3日が「ほぼ満館」のほかは、まだ埋まっていない。GWの利用者は約6割が東北を中心とした本州客、残りが道内客だが、「東北新幹線の不通に加え、復興支援などの関係で北海道行きの航空便が機材、便数ともに縮小されている影響も小さくはない」(金道太朗・湯の浜グランドホテル社長)。東北新幹線の全線開業効果が出始めたところだっただけに悔しさがにじむ。
しかし、厳しい状況ながら、明るい兆しもみられる。草津温泉(群馬県草津町)の旅館協同組合では「キャンセルも出尽くしたのか、客足は戻りつつある。一時は人影が消えた湯畑周辺だが、10日はにぎわいを見せた。GWは3日がピーク。満館とはいかないが、それに近い状態の宿も出ている」と話す。“肌感覚”では例年と比べ、6〜7割の予約状況という。
四万温泉(群馬県中之条町)では「例年とは比べようがないほど悪いが、予約がぼちぼち入りつつある」(温泉協会)、定山渓温泉(北海道札幌市)でも「予約の入りは例年より遅いが、すでに満館の旅館もある」(観光協会)などの声がある。
一方、月岡温泉(新潟県新発田市)は、観光客だけでなく、原発事故に伴う避難者の受け入れ態勢も整えている。同温泉旅館協同組合の樋口一廣理事長(ホテルニューあけぼの社長)は「避難者の受け入れを合わせれば、GWは満館になるのではないか」と話す。一般客には避難者が滞在する宿への宿泊に難色を示す向きもあるが、「通常通りゆったりできるようなおもてなしを提供する」と強調した。
■西日本
西日本でもGWの動きは鈍い。関西・中京方面の旅行者が多い山代温泉(石川県加賀市)。旅館組合では「満室になるという状況ではない。自粛ムードは薄れつつあるが、良くなっているというほどでもない」と話す。冷え込んだ需要の喚起に向けて価格設定に悩む宿も出ているという。
道後温泉(愛媛県松山市)でも「埋まっているのは5月3日ぐらいで心配な状況。予約の入りは例年よりさらに遅く、宿は価格設定を考えざるを得ない」(旅館組合)。
ただ、間際の動きに対する期待も大きい。南紀勝浦温泉(和歌山県那智勝浦町)では、「例年なら満室となるはずの旅館でも厳しい。ただ、4月29日、5月3日あたりから予約が入りつつある。日に日に動き出すと思う」(旅館組合)。皆生温泉(鳥取県米子市)も、「かなり厳しい状況ではあるが、個人客は間際化しており、これから上向くと考えたい」(旅館組合)。
由布院温泉(大分県由布市)の観光案内所も「問い合わせは例年より少ない気がするが、近年では飛び込みのお客も増えており、直前まで分からない」と話している。
九州では口蹄疫発生や新燃岳噴火のダメージを脱し、九州新幹線の全線開業に期待をかけていた矢先。九州の旅館・ホテル57軒の予約業務を代行する九州観光旅館連絡会の松瀬裕二代表理事は、「4月は少なくとも3割減だろう。自粛ムードのままGWに入り、さらに夏を迎えると大変厳しいことになる。GWを平常化への転機としなければならない」と話す。