GoTo停止の余波、幅広い業種に影響


地域経済の回復へ  事業の早期再開に期待

 新型コロナウイルスの感染再拡大に伴い、一時停止を余儀なくされているGo Toトラベル事業。その影響は観光事業者にとどまらず、旅館・ホテルの取引先など幅広い業種に及んでいる。全国の観光・温泉地などのさまざまな事業者にGo Toトラベル事業の開始や一時停止が自社に与えている影響を聞いた。

 生鮮食品卸売業などを手掛ける下呂魚介(岐阜県下呂市)は下呂温泉の旅館・ホテルや飲食店など100軒程度と取引がある。特に、旅館・ホテルは総売り上げの9割ほどを占めており、「ここが休業、倒産すると商売に大きな影響がある」と二村敏正執行役員総務部長は話す。

 Go Toトラベルの一時停止に加え、岐阜県は緊急事態宣言の対象地域となっており、宿泊施設を取り巻く環境は厳しい。客足の減少から休館するところも出ており、「必然、納める量も減り、売り上げもダウンしている」。

 Go Toトラベルで観光客が増えていただけに一時停止は痛い。二村部長は「早く再開してほしい」と願う。「わが社を含め、いろいろな業者が観光業と深く関わっている。観光は地域経済にとって重要な役割を果たしていることを理解してほしい」と訴える。

 山形県天童市で青果物の卸を手掛ける黒田吉五郎商店は、地元天童温泉の旅館をはじめ、飲食店、病院などと取引があるが、昨年4、5月は取引先の旅館が一斉に休館したことで売り上げが8割減と大きく落ち込んだ。「2005年から商売に関わっているが、こんなことは初めて」と同社の黒田達郎社長。

 Go Toトラベルの開始で「元に戻りつつあった」売り上げも、「年末またガタっと落ち、今に至っている」という。

 「景気の動向は良くも悪くも旅館とリンクしている」と黒田社長。「天童は人口6万人程度の小さな市。いかに外部からお客さまを呼び、消費をしていただくか。旅館には100社以上の取引業者があるはず。そのような現状を行政は見ていただきたい」。

 栃木県内で酒類の卸販売を行うA社。旅館・ホテル、ゴルフ場、飲食店などと取引をするが、旅館・ホテルの割合が65%と高い。

 「ここ1年間の売り上げはコロナの影響でひどい状況だった」というが、Go Toトラベルがあった10、11月は数字が上がり、11月は前年の90%まで回復。だが、Go Toが停止した12月は78%、1~2月は50%と、再び数字が落ち込んでいる。

 Go Toトラベルについて同社は「今はがまんの時」としながらも、「効果があるので商人としてはありがたい。感染者が少ない都道府県から再開してほしい」と訴える。

 東北地方の別の酒類卸B社もGo To事業の一時停止で1月の売り上げが大きく落ち込んだ。

 「緊急事態宣言の対象地域ではないが、観光が止まり、地元客の外食、飲食消費に自粛ムードが広がっている。需要の落ち込みが深刻だ」。

 Go To事業の開始で、取引先の旅館などでは同社が扱う酒類の販売が増えていた。「宿泊客の飲料消費が増え、地域共通クーポンを利用した売店での地酒の購入が伸びたようだ。団体や宴会が戻っていないためか、前年並みとはいかなかったが、一定の売り上げを確保できた。地域共通クーポンは旅館以外の取引先でも多く利用され、売り上げにつながった」。

 Go Toの段階的な再開を同社も訴える。「当社は地酒をはじめ、県産品の販売拡大に力を入れている。観光客などに県産品を消費、購入してもらえば地元にお金が落ち、地域経済の活性化につながる。キャンペーンは、すぐに全国一斉の再開は難しいかもしれないが、地方からでも段階的に展開してほしい」。

 茶菓子など土産品を旅館に卸す新潟交通商事(新潟県)は、売り上げの8割が旅館やサービスエリア、駅、観光施設など。「観光関連の事業者は地域に多い。人が動いてこそ、観光業界、関連する産業に利益をもたらす」(高橋徹社長)と、1日も早いGo To事業の再開を期待する。

 「地方にとってつらいのは、新潟を含めて多くがステージ2以下であるのにGo Toが止まっていること。条件を付けてでも、できる地域から先駆けて始めてほしい」。

 群馬県でクリーニングサービスを手掛ける第一ドライ。昨年4、5月の売り上げが前年同月比36%、23%と、旅館の休業とリンクして大きく数字を落としている。Go To開始以降の10月に92%、11月に90%と数字を戻したが、今年1月に50%と再び落ち込んだ。

 「10、11月の売り上げからもGo Toの効果を感じている。感染状況が落ち着いたらぜひ、再開してほしい」と堤一彦社長。「地域には地元密着型の会社が多い。互いに連携して営業しており、観光がその橋渡しの一翼を担っている。地方活性化のために観光は必須だ」。

 事業者は「売り上げで大きな打撃を受けているが、資本金が大きいので政府からの助成金を受けられない」(群馬県・群馬第一食糧、高城透営業部長)、「食材や飲料の納入業者をはじめ、関連業者への支援が非常に薄い」(同県・大成物産、金古敏取締役営業本部長)と、行政からの幅広い支援も訴えている。 

「旅館が稼働して商売が成り立つ」地域からさまざまな声

 事業者は「旅館・ホテルが稼働して初めて商売が成り立つ」と、地域における観光の重要性を述べる。各地の事業者の声をさらに取り上げる。

 「栃木県日光市でマスやイワナなど淡水魚の養殖業を営む。昨年10、11月の売り上げは、Go Toトラベル事業の効果で前年比150%ぐらい。事業の停止で受注が急激に減った。日光は観光がないと生きていけない地域。重要なものと思っている。生産者側から言うと、旅館・ホテルは宿泊した人に『栃木にはこんなおいしい物がある』と知ってもらえるところ。宣伝による売り上げ拡大を期待している」(栃木県・大滝、山越祐二代表取締役)。

 「シーツ、バスタオルなどの洗濯業務を行う。緊急事態宣言後は売り上げが50%以上落ちている。都内、浦安のインバウンドを対象にしていたホテルは大打撃を受けており、クリーニングを含めた取引業者もそれに引っ張られている。日本人を対象とする旅館も緊急事態宣言下は移動に制限がかかり、厳しいものがある。旅館・ホテルが稼働して初めて商売が成り立つ。川上にある旅館・ホテルが動かないと、特産品販売なども含めて全てが回らない」(千葉県・千葉港運倉庫クリーニング事業部千葉クリーニング、大島徹也氏)。

 「こんにゃくを中心とする食材の卸業。売り上げはGo To開始前の昨年4~7月、停止中の今年1月は前年同月比5~6割。昨年8~11月は同9割程度まで回復した。観光が止まると県内の人の動きが止まる。地域経済において人を動かす産業として重要と思う。Go Toはある水準まで感染状況が落ち着いた後、再開を希望する」(群馬県・茂木食品工業、茂木進社長)。

 「せんべいを中心とする菓子の卸業。売り上げの前年同月比は昨年4月に25%、5月5%、6~8月50%、9月60%、10、11月70%、12、1月20%。コロナ禍、Go To停止で、委託されていた商品の在庫管理が困難に。既に納品した分の返品対応にも頭を悩ませている」(群馬県・田村製菓、田村光三社長)。

 「青果物を販売。宿泊施設への納入は全体売り上げの約7割。売り上げの前年同月比は昨年4、5月が約30%。9月は100%を超え、10、11月も約90%と持ちこたえた。しかしGo To停止により今年1月は約30%を見込む。Go Toは感染拡大、自粛の流れが再び起きない状況のもとで事業を再開してほしい」(長野県・八百新、新保哲也社長)。

 
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