東日本大震災を受け、3月の訪日外客数は、前年同月比50.3%減の35万2800人に落ち込んだ。地震発生以降の20日間では7割を超える下げ幅だった。訪日旅行を回避する動きは被災地だけでなく、日本全国に及んだ。訪日観光の主要な市場となっている国・地域からは渡航自粛の勧告が相次いで出されるなど、原発事故の影響が深刻で、安全性への懸念が高まる事態となった。
外客数は日本政府観光局(JNTO)が14日、推計値として発表した。前年同月の実績に対するマイナスは、世界的な景気後退の影響が残っていた09年10月以来、17カ月ぶり。減少率は大阪万博の反動を受けた1971年8月の41.8%減を上回り過去最大だった。
3月の訪日外客数は、地震発生までの1〜11日の期間が前年同期比4%増の21万5千人だったが、3月12〜31日の期間は同73%減の13万7千人と激減した。
市場別にみると、ビジット・ジャパン事業の重点15市場はそれぞれ4〜6割の減少。最重要の東アジア4市場では、韓国が47.4%減の8万9100人、中国が49.3%減の6万2500人、台湾が53.0%減の4万2100人、香港が61.2%減の1万4100人だった。
欧州は、旧ソ連で起きたチェルノブイリ事故の経験から原発事故への不安が特に強いとみられている。ドイツが64.6%減の5千人に落ち込んだのをはじめ、フランスが56.3%減の5800人、英国が43.3%減の1万100人などとなった。
団体客、個人客ともに全国的にキャンセルが相次ぎ、新規予約も激減した。3月下旬は桜の観賞ツアーなどの需要が生じる時期だっただけに影響は大きかった。訪日教育旅行もすべて中止や延期となったほか、中国からのクルーズ旅行もすべて取り消された。
各国からは、被災地や周辺地域への渡航自粛の勧告、日本への渡航に注意を促す勧告などが相次いで出された。航空便にも運航取り消しや機材の縮小があった。また、フランスのツアーオペレーター協会では、当初は3月20日までとした渡航中止勧告を4月30日まで延長したという。
海外の旅行会社の反応についてJNTOは「原発事故の推移に注目しており、収束のめどがつくまでは、訪日旅行商品の企画、販売に慎重な態度を示す会社が大勢となっている」と指摘した。
訪日旅行市場は、08年夏の国際的な金融危機に端を発して外客数が15カ月連続(08年8月〜09年10月)でマイナスとなった低迷を脱し、尖閣諸島沖での中国漁船の衝突事件(10年9月)の影響からも回復して、再び上向いてきたところだった。
自然災害による訪日旅行への影響では、阪神淡路大震災(1995年1月)の際にも、地震発生の翌月の2月に前年同月比6.3%減とマイナスに転じた。その年は円高と地下鉄サリン事件(同年3月)なども要因となり、マイナスが10月まで9カ月連続で続いた。
ただ、今回の震災では原発事故が発生し、世界に大きな衝撃を与えている。「旅行の前提となる安全、安心に対する懸念が高まった」(JNTO)とされ、MICE(国際会議など)の開催を含めて訪日旅行市場は厳しい状況に置かれている。
原発事故の収束には相当な時間を要するとされるが、マイナスの影響を最小限に抑える情報発信やプロモーションを展開し、風評を払しょくできた地域から早期に需要回復を図ることが期待されている。